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    Crescentmoon774

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    Crescentmoon774

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    自探索者である淺桐千鶴とのバレンタイン。
    性別、年齢、見た目などが決まっていない夢小説です。お好きな方を当てはめてお読みください。

    雪と鶴淺桐千鶴

    閑静な研究室。清涼感のあると言えば聞こえはいいが、実際はただ薬品めいた僅かに不快感のある香りを漂わせるそこに、普段はあるはずもない香りが新たに混じっていた。
    それ即ち、甘ったるいチョコレートの匂いである。

    差し出したそれを非常に嫌そうに受け取る彼女の声は、「ひとまず礼は言っておくとしよう。貴重な糖分の補給、感謝する」という、言葉だけで見れば礼と取れるものさえもひどく苦々しいもので、ここまで来ると落胆ではなく笑いが先に来る。何故そんなに嫌そうなのかと聞けば、ほんの少し考えるような素振りを見せた後に「甘いものは慣れていない」とぶっきらぼうな返答が寄越された。返ってきたというより寄越されたと言う表現がこれ以上なく似合うほど、今日の彼女は投げやりだった。
    彼女の手元を見れば乱れた紙片に散らばった文具があって、彼女の集中の邪魔をしたのだということが一目瞭然だ。それもあって、今日くらいは彼女の暇つぶしに付き合ってあげようかなと言う気持ちになってくる。ゆえに、流れに身を任せることにした。

    「だが、」終わるかと思われた会話がそう続けられたかと思えば、チョコを渡した後は手持ち無沙汰に下がっていた手を取られる。外からここまで一直線に来た自分の指とヒーターが効いた研究室にこもって作業をしていた彼女の指とでは温度の違いがかなり激しく、柔らかな温かさに指先が震えた。その震えを優しく抑えて、いつもの彼女からは考えられないほどに甘く緩んだ声音が耳元へ囁く。

    「こうして寒い中、まんまと菓子会社の戦略に乗せられてボクに好意を伝えに来たキミに対して、多少は労いをくれてやるべきかと、少しばかり思わないでもない。さて、何をして欲しい?極力時間と労力のかからない願いにすれば、叶えてやらないでも無いぞ」
    そう、言葉が耳朶へと流し込まれた。甘くとろけるようなそれは予想外で、心の中で激しく感情が渦巻いた。その感情は嬉しさ、驚き、期待、そして──。


    その甘やかな言葉の数々がただの演技であることへの、とても残念だ、という気持ちだった。

    感情のままにそのことを指摘すれば、彼女は少し目を見開いた。そしてすぐに「…………なんだ、つまらん」と呟く。
    「研究が行き詰まったところで丁度良くオモチャが来てくれたと思ったというのに、真逆引っかからないだなんて。キミはボクのことが好きじゃなかったのか?」なんて。人によっては傲慢と取れるような言動には珍しいことに困惑が表れていて、ドッキリが成功したような気分になった。普段は傲岸不遜で世界の全てが自分の下にあると言いたげな態度ばかりを取る彼女が、こうして感情を露わにして狼狽える様を見るのは心地が良い。頭の良い彼女相手ではたまにしか成功しないが、今日は大成功だ。雪が降る中で必死に列に並んでモールと研究室へ足を運んだ甲斐があったというものだ。
    「何故だ?」と、思考を放棄して愚直に疑問を口にした彼女へ、優越感と共に「自分たちがどれだけ一緒にいると思っているのか」と告げる。
    それが、全てだった。自分が彼女をどれだけ想っているのか、どれだけ見ているのか。それを分かっていて、そんな非科学的で論理的ではないものを計算に入れなかった彼女の大負け。悔やんでも地団駄踏んでも、今日の戯れはそういう結果に落ち着いたのだ。タネも仕掛けもないこのありきたりな決着は、ともすれば『愛は勝つ』と表現できることだろう。
    返答を聞いた彼女は、翠色の瞳をぱちくりとさせて、眼鏡の向こうで呆れたような表情を作ってみせた。モゴモゴと動いた口の中で発された言葉は「なんて下らない」だろうか。残念ながら、今日に限ってその下らないものに振り回されて負けたのは貴女の方なのだ。にんまりと笑えば反比例するように彼女の表情が渋くなる。

    まあまあ、チョコレートは苦いものを選びました。ここはひとつ、共に休憩でもいたしましょう。お茶は何にしますか?紅茶?コーヒー?チョコを楽しみたいのなら紅茶を、眠気を覚ましたいのならコーヒーをお選びになってください。
    「ならコーヒーを」
    コーヒーですね?
    「……いや。紅茶にしておこう。キミはボクと反対で、甘いものが好きだったな?」
    …おや。どういう風の吹き回しで?
    「全くひどい言い草だな。……言っただろう、労ってやると。今日くらいはキミに合わせてやる。このボクが、だぞ。光栄に思うと良い」
    それは、それは。
    頑張った甲斐がありました。
    しかし、先ほどの確認は何のおつもりで、……って。

    白い雪が降り積もり、町に甘い香りが漂うある日の研究室にて。
    密かに隠し持っていた、ヴァレンタインデーに相応しいソレに驚愕の表情を見せた仮の助手を見てようやく、曇りっぱなしだった白い彼女の顔は嬉しそうに綻んだのだった。



    色々補足
    千鶴が不機嫌だったのは「先を越されたから」です。ずっと「チッ助手のくせに先回りしやがって」という感情が渦巻いているため大変に機嫌が悪い。ネコちゃん?
    彼女は甘いものは別に嫌いじゃないと思われます。好きでもないけど。チョコは甘いものを選んでると思う。
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