雪と鶴淺桐千鶴
閑静な研究室。清涼感のあると言えば聞こえはいいが、実際はただ薬品めいた僅かに不快感のある香りを漂わせるそこに、普段はあるはずもない香りが新たに混じっていた。
それ即ち、甘ったるいチョコレートの匂いである。
差し出したそれを非常に嫌そうに受け取る彼女の声は、「ひとまず礼は言っておくとしよう。貴重な糖分の補給、感謝する」という、言葉だけで見れば礼と取れるものさえもひどく苦々しいもので、ここまで来ると落胆ではなく笑いが先に来る。何故そんなに嫌そうなのかと聞けば、ほんの少し考えるような素振りを見せた後に「甘いものは慣れていない」とぶっきらぼうな返答が寄越された。返ってきたというより寄越されたと言う表現がこれ以上なく似合うほど、今日の彼女は投げやりだった。
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