小夜啼鳥とお誘いの夜『
ずいぶん遅い帰りになってしまったと部屋への道を急ぐ。二人は早々に飛ばせたが、残った二人にかなり粘られた。結果四吊りを取ったものの、ランクマ終わりにしては重たい試合だった。
(まだやることがあるのに…)
義務化されている日記を書いたり、今日の戦績をまとめたり、写真機の手入れだってしなくてはいけない。ジョゼフは早く仕留められなかった自分を戒めながら、暗い廊下を早足で歩いた。
暫く歩いて、やっと自分の部屋に辿り着く。道中で見た時計は十二時半を示していた。部屋の扉を開け、電気をつけようとして室内が明るいことに気付く。
「……イライ?」
部屋の真ん中の一人がけのソファに浅く座り、にこっとこちらに微笑みかけて来たのは恋人のイライ。普段から部屋を訪れることはあれど、部屋主がいないのに入り込んでいたの初めてだ。
「こんばんは、ジョゼフ。試合お疲れ様。諸々のことは終わらせてあるけれど、気になるようなら自分でも確認してみて」
諸々のこと、というと。まさかと思いながら見回すと確かに諸事は片付けられていて、あとはもう日記を書いて眠るだけらしい。
「それは有難いことだが……。急にどうしたんだい?何か用事でもあったかな?」
「うーん。何かあったわけでは……無いんだけどね」
イライは膝の上に揃えた手の指を、意味もなくバラバラに動かしている。何か言い出したいのに言葉にならないようだ。口を開こうとしては閉じ、小さな音が漏れても次につながらずに時が過ぎる。
そして直にそれも発されなくなり、沈黙が降りた。こうなってしまったら、次に言葉を発するハードルはより上がるだろう。
(やれやれ…)
少し呆れたように、だが満更でもなさそうな顔で、ジョゼフは動く。数歩歩いてイライの座るソファに近付いた。
「…あ、」
それに気付いたイライが、席を譲ろうと腰を上げた。空いたソファに深々と座り、居場所のなさそうに横に立っていたイライに向かって腕を広げる。
「ほら、おいで」
ジョゼフは足を組んでいない。そして両手を広げている。その意味を悟ったイライは、少しの空白のあと、おずおずとジョゼフの膝に斜めに乗った。
「少しずつでいいから、言ってごらん。君のおかげで時間があるんだ。幾らでも待とう」
口下手な恋人に甘い声で囁く。安心できるようにと背中に手を回して優しく抱きしめた。
「…えっと、………その」
「イライ。ゆっくりで良いよ。今日は、ヒバリも鳴くのを忘れるだろう」
イライはまた指を弄っている。先ほどよりその顔と耳が赤くなっていて、照れているのがわかった。だが、手ばかりじゃなくこちらを見て欲しくて、フードを下ろしてキスを一つ。か弱い声が漏れ、びっくりしたようでこちらを見た。目があったからと見つめ返すと直ぐに顔を逸らされる。
「その………」
下を向いた状態で、口を開く。何回か閉じたり開いたりを繰り返していたが、また閉じてしまった。
ダメだったかと思い、また声をかけようとする。その時、頭が後ろに引っ張られるような感覚がして、布音が響いた。
驚いて後ろを振り返ると、ちょうど髪を結んでいたリボンが解ききられ、しゅるんという最後の音を残したところだった。唖然としながらも、ジョゼフは今そのリボンがイライの手の中にあることに気付く。
「………」
イライは、ジョゼフと目が合っても今度は直ぐに逸らさない。ゆっくりと右手に持ったリボンを顔に寄せ、手のひらと挟むようにしてそこにキスを落とした。その後にチラリとこちらを見て、あは…と罰が悪そうに笑う。
「こういうこと、なんだけど………」
ジョゼフは自分の顔が熱くなるのを感じた。だが、これは決して照れているわけでは無い。
「………やってくれるね」
そう低い声でつぶやいた後、ジョゼフはイライを持って立ち上がる。イライが何か言っていたが無視し、大股で歩いてベットルームに入った。
大きなベットに丁寧に、それでいて素早くイライを降ろす。直ぐに自分もベットに腰掛け、上から覆い被さるように唇を奪った。
「んっ!? ぅ………んぅ…、ふ、ぁ」
イライの両手を自分の手で包み込み、彼の逃げ場を塞ぐ。肩をずり落ちた白髪が、イライの視野を狭めて、ジョゼフ以外のものを隠した。口いっぱいにジョゼフを受け止める姿は小動物のようで愛らしい。たまに顔の向きを変えると甘い嬌声が口の隙間から漏れた。
このまま、と思っているとイライがジョゼフの胸を押す。
「……どうしたの?」
「ッはぁ…はぁ、はぁ………ジョゼフ、君、日記は」
「あぁ、大丈夫さ。さっきから、全部見られてるからね」
そう言ってついっと指で窓の方を指す。窓辺の暗闇の中に、光る瞳と黄色い羽が見えた。
「それに、ナイチンゲールは夜の愛を鳴く鳥。君が愛を誘ってくれた今夜は、彼女の瞳に収めるに相応しい」
』
………と。ここから先は、私の口からは報告しかねます」
・このあと
「そう言えば、君のあの誘い方、何処で知ったんだい?」
「………本で読んだんだ。………これなら自分にも出来るかな、って。…………でも、すごく、恥ずかしかった」
なんて枕に顔埋めて可愛いこと言っちゃうから第二ラウンド開始な写占ね?