アウ狐「おいっ、クソ野郎!聞いてないぞ!!」
「アハハ♡聞かれてないからねぇ〜♡じゃ、ごゆっくり〜」
いつもの上司の笑い声と、聞き覚えのない男の怒号。扉の前には顔を赤らめ苦しそうに息をする美丈夫がいた。
ヒスイ──この組織では『狐』と呼ばれてる──が幹部の玩具にされているのは周知の事実だった。ヒスイもそれを容認していたし、この地獄で生き抜く術として享受していた。
部屋に放り出された男をヒスイは知っている。名はアウグスト。大半の構成員は偽名を使っているがおそらく真名なのだろう。自ら望んで闇市に来た狂人で、懲罰班の主。イカれた上司のお気に入りだが、酷い扱いは受けていないらしい。綺麗な顔をして丁寧な喋り方をする傍若無人な乱暴者。自分以外の他人を道具だとしか思っておらず、懲罰という名目で対象者を殺害したことが多々。自由奔放で幹部に対しても敬語も使わないが、任された仕事は大抵こなす幹部の犬。陰では「狂犬」と蔑まれている。顔を合わせたことは無いが、闇市で知らない奴はいないと思える有名人だ。
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