水無月(別)☆quiet followMEMO かつて、私が突き飛ばした少年は、冷たい雨に打たれながら泣き出しそうな瞳でこちらを見つめていた。 今、私が旅立ちを見届けた青年は、冷たい闇に包まれながら永遠にその瞳を閉じている。 「カイト」 私に泣く資格はない。カイトもそれは望まない。 それでも。 「……カイ、ト…」 雨が止めば月が出る。 月が隠れれば雨が降る。 私の中のあの子は、いつまでも独りで凍えている。Tap to full screen .Repost is prohibited Let's send reactions! freqpopularsnackothersPayment processing Replies from the creator Follow creator you care about!☆quiet follow 水無月(別)DONEドイツ詩人メッケル作『金魚』からこの暗がりのなかで いつから、そして何がきっかけで髪を伸ばし始めたのかはもう忘れてしまった。ただ、父様と同じ髪型にしたときは、何となく誇らしく感じたことを覚えている。「三つ編みなんて女みたいだ」と憎まれ口を叩いてきたトーマスが、「じゃあトーマスは私のことを母さんと呼ぶんだね」と父様にからかわれて、反論できず半泣きになったことも(あの子は昔から父様が大好きだったから) 研究所で働いていたときは、もはや願掛けのようなものだった。 この髪があのときの父様よりも長くなったら、父様は帰ってくる。背中まで伸びたら父様は帰ってくる。腰まで伸びたら父様は帰ってくる。膝まで伸びたら― 行方不明の科学者について何の情報もよこさないDゲイザーを握りしめながら、毎朝鏡の前で髪の長さを確認した。 3359 水無月(別)MEMO かつて、私が突き飛ばした少年は、冷たい雨に打たれながら泣き出しそうな瞳でこちらを見つめていた。 今、私が旅立ちを見届けた青年は、冷たい闇に包まれながら永遠にその瞳を閉じている。 「カイト」 私に泣く資格はない。カイトもそれは望まない。 それでも。 「……カイ、ト…」 雨が止めば月が出る。 月が隠れれば雨が降る。 私の中のあの子は、いつまでも独りで凍えている。 192