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    〇〇日後にモブペパ(R-18)になるモブペパ冒頭だけ、この文章自体にえっちな要素はありません。
    (22/1214ちょっと追記)
    当方🍊プレイ済ですが設定は🍇、かつ台詞や背景など解釈不足です。ご容赦ください。

    モブペパの冒頭シーン 壁一面に敷き詰められた本棚は、まるでそれ自体が辞書であるかのようだ。これだけの書物があるのだから、一つや二つくらいは自分の求めている情報があってもいいのではないか。そんな淡い希望は、今日も打ち砕かれた。
    「…とんだ無駄足だったな」
     借りていた最後の一冊を本棚に戻し、ペパーはエントランスを後にした。

     長い階段を降りながら、どうしたものかと思考する。元より期待はしていなかったが、ここまで手応えが無いと流石に堪える。彼には時間も情報も、何もかもが足りなかった。焦燥感が募り、不安が込み上げてくる。早く、アイツを助けなければ。
    「――っ、?」
     瞬間、足元がふわりと浮いた。うっかりしたことに、階段を踏み外したらしい。アカデミー名物の、地獄の階段。――転げ落ちたら、きっとただでは済まないだろう。
     重力に則り、体がつんのめる。顔が地面へと叩きつけられる――思わずペパーは、目を瞑った。

    「………ん?」
     覚悟した衝撃がいつまで経っても来ない。ペパーが恐る恐る目を開けると、自分の身体を支える誰かの腕が見えた。逞しいそれは、男のものだった。
    「大丈夫かい?」
     頭上から聞こえたのは、穏やかな男の声だった。その声色はどこか懐かしくて、胸の奥に押し込めていた何かをくすぐられたような気がした。ぼんやりしている内に軽々と身体を起こされて、ペパーは慌てて男に向き直った。
    「…あ、悪い」
     ぺこりと頭を下げる。おずおずと顔を上げれば、身なりの整った壮年の男と目が合った。恰幅はいいが、柔らかな笑みのおかげか威圧感は感じられない。
    「アカデミーの生徒さんかな」
    「まあ、はい」
     ――登校したのは久々だけど。と頭の中で余計な一言を付け足す。ペパーの私情など、見ず知らずの彼に言ったところで話がややこしくなるだけだ。
     男は紙袋をいくつか携えていた。袋から様々な食材が覗かせており、ペパーは荷物持ちを手伝うと申し出た。礼の意味もあるが、中には見たことの無い調味料もあったことで興味がそそられたのだ。男はあっさり申し出を受け入れた。
    「助かるよ。テーブルシティは広いから」
     そう言って男は笑う。笑うたびに濃くなる目下の皺に、無意識に父の面影を重ねる。こうして並んで歩く姿は、買い物帰りの親子のように見えるだろうか。
     踏み外しそうになる思考を、ブンブンとかぶりを振って払う。不思議そうに見つめる男をよそに、ペパーはあたりを見渡した。
    「っと、タクシー乗り場は…」
     広場へと歩もうとするペパーだったが、肩をぐっと捕まれ阻まれた。振り向けば、男は路地を指差していた。
    「こっちなんだ。僕のお店」

     男は食品問屋の経営者だった。食材屋巡りは怠らないペパーでさえも知らない店だがそれもそのはずで、ごく最近営業を始めたらしい。人通りの少ない路地を進むうちに、その建物は姿を現した。
    「僕の売り物はマニアックみたいでね」
     そう言い男は肩をすくめた。男の言葉に、ペパーは何も答えなかった。店の棚に置かれた珍しい食材の数々に目を奪われていたからだ。
    「こんなの、いつもの店じゃ見られねえ」
    「君は料理が好きなんだね。ええと…」
     男に名前を訊かれ、素直に答える。男はまた微笑んだ。物柔らかで自分の趣味に精通した男に、ペパーはすっかり気を許していた。あれはこれは、といった彼の質問攻めも、男は少しも嫌がることなく答えた。

    「こんなに楽しく話したのは久しぶりだ。ありがとう」
     時を忘れて談笑をしていたら、辺りはすっかり暮れていた。アカデミーの寮に門限は無いが、あまり遅くなるとあれこれ理由を聞かれて面倒だ。名残惜しかったが、ペパーは帰り支度を始めた。
    「オレも、普段はマ…相棒くらいしか、話し相手がいねえから。すげえ楽しかった」
     ぺこりと頭を下げてから、玄関を出た。ペパーくん、と背中越しに呼ばれて振り向く。
    「またおいで」
     そう言って、男は一層優しく微笑む。その言葉は、どんな食材でも満たされることのないペパーの腹中を埋めるような、甘い響きだった。ペパーは息が詰まりそうな味を飲み込んでから、嬉しそうに目を細め、手を振った。

     青年を見送った男は店の中へ戻ると、先ほどまで座っていた椅子に再び腰を下ろした。すぅーっと深く息を吸い、吐く。それを何度も繰り返す。まるで今しがた去った彼の残り香を味わうように、あるいは昂った腹の内を鎮めるように、執拗なまでに深呼吸を続けた。


    ◇◇◇
    「それじゃあ、マフィティフをお預かりしますね」
    「……お願いします」
     受付の女性に軽く頭を下げてから、ペパーはポケモンセンターを後にした。今日は相棒の定期検診のために、総合病院附属のセンターにやってきたのだ。
     月に一度、マフィティフは一週間ほど検査入院をする。あまり成果は期待していなかった。とはいえ知識のない自分が独学で見続けるよりも、専門家に預けることも必要だと思っているのは事実だ。
     この期間のペパーは、ひどく気分が落ちる。長年連れ添った家族と離れ、今度こそ一人なのだと思い知らされるような気がした。元気のない相棒を見るのは辛かったが、それでもそばに居てくれるだけでよかった。彼の世話ができるのが幸せだった。
    「……新しい料理でも、考えるとするか」
     パシパシと頬を叩き、澱んだ思いを振り払った。何かしていないと気がおかしくなりそうだ。早く寮に戻ろうとタクシー乗り場へ向かおうとした矢先に、スマホロトムが鳴り出した。見れば先日出会った男からで、その日に連絡先を交換したことを思い出した。
     電話に出ると男の穏やかな声が聞こえた。今のペパーにとっては、ひどく安心できる音だった。
    『珍しいスパイスが手に入ってね。よければ今から店に来ないか?』
     男の誘いをペパーは受け入れた。あの彼が豪語するのなら、間違いなく希少な品だろうと確信したのだ。今すぐに向かうと伝えると、電話越しに男のふっと息を吐くような笑い声が聞こえた。そんなに喜んでもらえて嬉しいよ、と話す男に、ペパーは自分の子供じみた振る舞いが気恥ずかしくなった。
    『じゃあ、待っているからね』
     男はそう告げ、通話は終わった。スマホロトムをポケットへと押し込んでから、ペパーは再び頬を叩いた。今度こそ相棒を救う手立てが見つかるかもしれない。そう胸を高鳴らせ、ペパーはタクシーへと飛び乗った。

    「やあ、いらっしゃい。よくきてくれたね」
     男はペパーを温かく迎え入れた。
     店内へと踏み込んだ瞬間、妙な香りを感じて立ち止まる。食材とは違うどこか人工的な匂いで、あまり良いものではなかった。思わず眉を寄せたペパーの顔に気付き、男は言う。
    「フレグランスを変えてみたんだが。安物買いは良くないね」
     冗談めかし鼻をつまんでみせた男に、ペパーは思わず苦笑をこぼした。
     それから男は準備があると告げ、倉庫と思われる部屋へと出て行った。ペパーは用意された簡素なダイニングテーブルで彼を待った。
     照明のついてない室内は昼間だというのに薄暗い。外壁が厚いのか、賑やかしいはずの外の音も聞こえず、しんと静まりかえっていた。手持ち無沙汰で辺りを見渡すが、棚の中身もよく見えなかった。
     しばらくして男が帰ってきた。手にはティーセットを持っており、あれが例の品だろうかとペパーは目を凝らした。
     男は向かいの椅子に座ると、ポットの中身をコップに注ぎ始めた。紫に似たピンクの液体が陶器を満たしてゆく。湯気に乗って甘い香りが漂い、ペパーの鼻口をくすぐった。このスパイスは紅茶のように煮出して飲むのだ、と男は説明した。
    「なんでも、滋養強壮によく効くとか」
    「!! け、怪我にも?」
     その効能を聞き、ペパーは思わず身を乗り出した。男は問いかけには答えず、代わりに質問を返す。グレーの眼でペパーをじいっと見つめながら、その口を開いた。
    「これが必要なのかい?」
     まるで全てを見通されるような眼差しだった。思わず怯むが、弱々しい相棒の姿が脳裏に浮かび、ペパーもまた男をしっかりと見据えて頷いた。男はしばらく押し黙ってから、ふっと息をこぼしてから薄く笑った。
    「なら譲ろう。大事な君の頼みだ」
    「いいのかっ」
     男が頷くと、ペパーは目を瞬かせた。ずっと探し求めていた秘伝スパイス――どんな病気も怪我も忽ち治るという、万能薬。これがそのものかは定かでないが、迷宮を彷徨っていたペパーにとっては正に希望の光のように思えた

     だがペパーは彼の行為がどうにも腑に落ちなかった。つい先日知り合ったばかりの自分に、何故ここまで目をかけるのだろうか。怪しいとまではいかないものの、不思議に思えてならない。ペパーは彼に事情を話すべきか、頭の中で自問する。
     そうこうしてる内に男は湯気の立つコップをペパーに差し出した。両手で受け取り中身を覗く。微かに波打つ薄紫の液体は妖しげで、正直食欲がそそられるものではなかった。しかし彼にはその効果を身をもって確かめる必要がある。ペパーは意を決してそれを一気に飲み干した。
    「………うぇ」
     口に広がる渋みに、ペパーは思わず顔を顰めた。紅茶というよりも漢方に近い、薬膳のような風味だ。不味さで歪んだ唇を手の甲で拭い、ペパーはカップを机に置いた。
     空になった器を一瞥し、男は口角を上げた。含みを持たせた笑みに、ペパーはまだ気付いていなかった。
     
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