集合時間の五分前、いつもの改札横。眉見と百々人のスマホが同時に鳴ると、会話を切って画面を開いた。グループチャットには、大峰からの電車が遅れているためもう少しかかるという連絡と急いでいる様子のスタンプが連続で送られてきていた。それにスタンプを一つ返すと、顔を上げて眉見に問いかける。
「アマミネくん、遅れるって。どうしよっか、待つのはいいんだけど暑くない?」
「そうだな……コンビニで時間をつぶすか。あとで飲み物を買うつもりだったんだが、今でいいだろう」
「じゃあいこ。もう影にいても暑すぎて汗止まんない」
残暑というにはまだ夏の盛り、気温は下がる気配を見せず今日も外にいるだけで汗が噴き出てくる蒸し暑さだ。雫となって転がる汗を首筋に感じつつも、拭うのも面倒でそのまま放っておく。
駅から見えていたコンビニの自動ドアをくぐると、とたんに正面から強い冷気に包まれる。思わず滑れた声を眉見に笑われつつ、ふらふらとコンビニ内を物する。お菓子の棚に栗や芋味のものが並んでいるが、こんなに暑いのにもう季節は秋になろうとしているのだろうか。それよりはまだ冷たいものを口は求めていて、足はそのままアイスコーナーに引き寄せられる。眺めていると後ろから水のペットボトルを持ってきた眉見も同じように覗く。
「何か買うのか」
「うーん……こう暑いと食べたくなっちゃって、見てた」
「これから昼を食べに行くのにか」
「そうなんだけど、今口が冷たいものを求めてるんだよね。マユミくんは食べたくならない?」
「まあ、そうだな。今食べたらうまいだろうとは思う」
そう笑いケース内をぐるりと見渡すと、ひとつを見て日を止める。思案すると、その翡翠がこちらを向いた。
「百々人、コーヒー味は食べられるか」
「え? うん。なに、ほんとに食べるの?」
「ああ。ちょっとぐらいいいだろう」
ボックスの扉をスライドすると目当ての袋を取り、冷気が滑れないようすぐに閉じた。さっさとレジに向かいペットボトルとアイスを会計してしまうと、どろりと熱気が沈殿する外へと出てしまう。
せっかく冷え始めた体にまとわりつく熱気にうんざりしつつ、コンビニで涼んで時間潰そうって言ってなかった?と口には出さないままコンビニの入り口横で立ち止まる眉見の様子を見守る。早速袋を開けると二つがつながったままアイスが出てきた。
「それ、そうやって入ってるんだ。ちぎるの?」
「百々人も食べたことはないのか。俺も食べたことがなかったから気になって買ってみたんだが……そうらしいな」
眉見がひねると簡単に二つに分かれ、その片方を受け取る。ふたもちぎって取るようだと力を込めれば、開いたとたんに溶けかけたアイスが垂れそうになるから慌てて口に含んだ。口内に風が通るよう冷たさが広がる。
「……あ、おいしい。苦くてちゃんとコーヒーっぽさあるね」
「ああ。甘いがすっきりしていて食べやすい」
生ぬるい風がやわく髪を揺らすたびに体温が上がっていくような熱気なのに、口の中が、胃が冷たいだけで随分と涼しく感じる。眉見が髪の貼りついた額の汗を拭って一息つくと、またアイスを口にしてがじがじと噛んで砕くように食べ進める。それ、噛むんじゃなくて吸うものなんじゃないの、と思いつつも百々人にもどちらが正しいかはわからなかったので黙っておいた。
この後大峰が合流したらそのまま昼ご飯だけれど、二人してその前にアイスを食べたなんて言ったらかわいい後輩は拗ねてしまうだろうか。それも見たいけれど、何食わぬ顔で内緒にしたままご飯を食べてしまってもいいなと思った。
「マユミくん、アイス食べたのアマミネくんには内緒ね」
眉見がいたずらっぽく口角を上げて頷く。二人用のアイスを分けたことは、二人の出来事のままにしておこう。