テレビから流れる野球中継の解説だけが店内にある声で、客も店主も最低限の言葉しか交わさない。包丁が軽快にネギを切る音と麺の茹で上がりを知らせるキッチンタイマーの電子音、麺を啜り半透明のコップに水を入れる他人の食事の音ばかりが店内で雑多に混じりあう。
そんな中で、眉見も百々人も無言で頼んだラーメンが届くのを待っていた。手持ち無沙汰にSNSをスクロールする百々人から視線を外して厨房を眺め、丼にいくつかの調味料やスープが注がれ混ぜられる様子を見守る。黄金色の麺が浸かると薄切りのチャーシューが並べられ、仕上げに切ったばかりのネギが散らされた。ちょうど自分たちの分だったらしく、愛想のない店主がお待たせしましたとぶっきらぼうに言うと目の前にどこか懐かしいような中華そばが置かれた。ふわりと鼻腔をくすぐる醤油ベースの香りに忘れていた空腹が刺激される。割り箸を割る軽い音が二人分響く。
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