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    忸怩くん

    @Jikujito

    鋭百、春夏春、そらつくとか雑多

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    忸怩くん

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    リーズナーパロF-LAGS
    ※嘔吐注意

     機体が収容され各接続のシャットダウン、熱放出などの処理を待ちながらコックピットの中で目を閉じて細く長い息を吐く。重力負荷を気にせずに振り回した体が基地内の気圧に慣れず頭が痛む。この箱が開くときには眩暈も収まってくれるようにと体を落ち着かせながら、左手首のトリコロール色の小さな3つの石が埋め込まれたブレスレットを指で撫ぜた。
    「……ただいま」
     呟く声は通信を切断した誰にも拾われないままに冷たい金属が手首を冷やすが、かえってそれによりたしかに存在を感じられて、今はもうその冷たささえなくては落ち着かないものになっていた。


    「先生、よう帰ったな!けがはしとらんか?」
    「ただいま、大丈夫だ。……涼は?」
     機体から降りるなり走り寄ってきた大吾の安堵した顔を見て自然とこちらも頬がほころぶ。今日もちゃんと、守れた。もう一人のチームメンバーの様子を気にして涼の機体を見上げると、大吾が安心させるよう明るい声で告げる。
    「まだ機体のクールダウン中じゃ。もうじき終わりそうじゃが、一部システム切断が起こっとるみたいでな。涼の機体は繊細で苦労が多いな」
     考え込むように笑みを消して機体を見つめる大吾に気付かないふりをして機体に背を向けると、出撃ゲートの出入り口へと向かう。アルミの階段をならすカンカンという足音で気付いた大吾が追いかけてきて隣で首を傾げた。
    「先生、どこ行くんじゃ?」
    「喉が渇いたんだ、ちょっと休んでくる。大吾は涼を待っていてやってくれ」
     大吾がうなずくのを横日にゲートを出ると短いため息をついた。背後でゲートが閉まる音がするが大吾がついてきている気配はなく、涼のところに戻ったようで安心した。大吾に言った通り怪我はないが、結局収まらなかった頭痛がだんだんとひどくなっているし、胃の中が渦巻いていて気持ち悪い。
     足早に少し離れたトイレへ向かうと誰もいないことを確認して個室に入り、きっちりと鍵を閉めた。口を開けるだけで容易く逆流した胃液と血の混じったまだらな赤が便器に渦巻く。口の中に広がる鉄と酸の味に辟易として、便器に体重を預けるようにもたれかかった。
     ここのところ、機体を降りるたびに吐いている。頭は地上にいる間中ずっと軋んで痛むようになってしまったし、なによりすごく寒かった。冷え性だからというだけでは説明がつかないくらいに冷えた腕を掻き抱くと、より冷たいブレスレットが頬に触れて閉じていた目をそっと開ける。
     自分が乗らないと、涼も大吾も護れない。戦いたくないんだとこばした涼の声も、白い背中で赤黒く爛れた火傷も覚えている。大吾と交わした涼を守るという約束も、パイロットを降ろされながらも絶やさない、息が詰まる笑顔も知っていながら、自分じゃない誰かが戦えばいいとは到底思えなかった。パイロットは替えが利いても、今二人のために乗れるパイロットは自分だけなのだから。
     まだやれるさ。呟いた声は誰もいない冷えた空気に消えていった。
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    忸怩くん

    DONE【鋭百】眉見の微体調不良
     乗換を調べてくれているのも、生徒会の議事録に目を通しLINKで修正指示を送っているのも、まっすぐに伸びた背中もいつも通りだ。駅のホームには北風が強く吹き込み耳を切るように過ぎていくため百々人は首をすくめマフラーに埋もれていたが、眉見は意に介さず少し緩めたマフラーから素肌を晒してまっすぐに前を見つめていた。その視線はいつも通りよりももう少し固くて、仕事中の気を張った眉見のままになってしまっているようだ。
     アナウンスが流れると遠く闇の中に眩い光が見え、風と共に電車がホームに滑り込んでくる。ほとんどの座席が空いている中、角席を眉見に譲ると一瞬の躊躇を挟んで小さく礼を言って座り、百々人もその隣にリュックを抱えて座った。こんな時間に都心へ向かう人は少ないのか車内は閑散としており、自分たちの他にははす向かいの角に座った仕事中といったふうの年配の男性だけだ。外とあまり変わらない程度の冷えた車内には、それに抗うよう熱すぎるくらいに足元の暖房ごうごうと音を出しながら膝の裏を熱する。一日ロケをこなしてきた体にはさすがに疲労がたまっているのか、それだけで瞼が落ちて無理やりにでも寝かしつけられてしまいそうだった。隣を見ると夏前の草木を思い起こさせる鮮やかな緑は変わらず揺れることなく据えられている。けれど腿同士くっついたところからは布越しでもわかるほどの熱が伝わってきていた。
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