答え探しはまだ いつまでたっても夏が終わらないとうんざりしているうちに、急にやってきた秋はもう冬に近づいていて首筋を冷たい風が通り抜ける。鮮やかに色づいたイチョウの葉が枝を黄色く染めあげ、散った落ち葉が積もって道路もすっかり覆われてしまい黄色い絨毯が敷かれているようだ。レッスンからの帰り道、なんとなく帰る気分になれなくて買うものもないのにコンビニにでも行こうかと考えていた百々人に、寄り道をしよう、と眉見に誘われ着いたのがここだった。
事務所から駅までの道とは少し外れた一つ遠いコンビニまでの道は、車道の両側にイチョウ並木がしばらく続いており、紅葉以外の時期も爽やかな緑がやわらかな木陰をつくっていて気持ちがいい。ただ、こうして実際に葉が色づいた時期に来たのは初めてだった。ときたま踏みつぶされた銀杏もあるが、こまめに掃除されているようで鼻につくにおいはそう強くない。鮮やかさの前にはそのにおいすらも秋らしくて好ましいほどだ。
「この時間帯はちょうど夕焼けも見えて綺麗なんだ」
さわさわと揺れる葉を眺めていた視線を空に向けると、百々人は感嘆の息をついた。もう暮れようとしている夕日そのものは家々に阻まれて見れないが、道の先に見える空は薄い水色から桃色にほのかに染まり始めたところだった。まっすぐに続く道のおかげで、遠くの空の水彩みたいなやわらかなグラデーションまでよく見える。
「これを見せに連れてきてくれたの?」
「帰りたくなさそうだったからな。どうせなら、と」
考えていたことが筒抜けだったらしいことが気恥ずかしくて目をそらし、イチョウの木を見上げた。眉見が歩くのにあわせて、ローファーにかき乱された落ち葉がさらさらとこすれる音がする。すぐ横を帰路につく小学生たちが自転車で通り抜けていくつかの葉を舞わせ、髪もぶわりと散らされてぎゅっと日を閉じた。
細く日を開けたその先、まだ水色を残す空の先を行くような臓脂色が振り返る。
いつだって手入れされた刀のような硬さと芯の強さを持つ翡翠色は、日が合うとゆるやかに目を細めてあたたかさを含んだ視線でこちらを見守るように待っている。この人は融通が利かなそうに見えてその実ユニットメンバーには甘いような、そういうところがあるのだ。そういう内側をもっと知りたくて、手を掴みたくなる。
「すぐに暗くなる。そろそろ行くか」
秋の日が落ちるのは早く、眉見の言うようにあっというまに暗くなってしまうだろう。それでもまだ空は桃がかった程度で明るさを残しているから、もう少し、と思ってしまうのだ。
西の空が購脂に染まるにはまだはやいから、その中に同じ位をした君を見るまで、もう少しここにいたい。