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    忸怩くん

    @Jikujito

    鋭百、春夏春、そらつくとか雑多

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    忸怩くん

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    くらふぁ COD後

    「あれ、アマミネくんだ」
     駅前からほど近いカフェで手で持つには少し熱いラテを片手に席を探していると、カウンター席に見慣れた後頭部を見つけた。夕方の店内には空席がちらほらとあったが、偶然同じカフェに居合わせたのがうれしくて隣の椅子の背にコートをかける。
    「百々人先輩。早いですね」
    「アマミネくんこそ。今日は生徒会のお仕事少なかったの?」
    「進めようと思ってた予算分配が、先生たちのほうからまだ降りてこなくて。やることなかったんで解散しました」
     話しながらも百々人のスペースをつくるため、机の上に広げられていたノートなんかをまとめて脇に寄せてしまい、コーヒーカップを傾ける。少し減っている真っ黒な液体はもう冷めてきているのか、ためらいなく口にした天峰はそのまま腕時計に目をやった。
     スタジオ入りの時間にはまだだいぶ早い。直前までインタビューと撮影に向けて研究をしていたのだろうか、とついノートに視線を送ると、唇がきゅっと寄せられた。
    「別に、直前の悪あがきくらいしますよ。せっかく時間あいたんだし」
    「あ、ううん。僕もそうしようと思ってたから、なんだか不思議な感じがして」
    「そうですか?まあできることはやっておきたいんで」
    「そうだね。……僕が来て、邪魔しちゃったかな。続けてて大丈夫だよ」
     閉じられたノートの上には筆箱も乗せられてしまい、開かれる気配はない。百々人と話すためか、もしくは中を見られたくなくて中断してしまったのかもしれなかった。それならば個々で過ごそうかと提案すると、「えっ」と声が上がる。
    「いや、せっかくですし一緒にやりません?この前も百々人先輩の持ってきたポーズめちゃくちゃ参考になったし、俺がまとめたのも参考になるかも」
    「え……いいの?アマミネくんががんばってまとめたやつなのに」
    「がんばってるとか言わないでください。……それぞれ考えてきたこと共有したら幅も広がるし、効率的じゃないですか。もちろん、先輩がいいならですけど」
    「うん……アマミネくんの参考になるかわからないけど、見せあいっこしようか。ちょっと待ってね、ノート……あ」
     リュックの中を探っていた手を止めると、天峰が首をかしげる。改めて時計をちらりと見てからスマホに手を伸ばしてトーク画面を開いた。
    「どうかしました?」
    「マユミくんも呼んであげようと思って」
    「ああ……そうですね。でも最近結構学校の方忙しそうだし、難しいかな」
     たしかに今月に入ってから、ぎりぎりでレッスンや現場に来ることが多くなっている。
     通常の生徒会業務に加えて行事の準備があるのだと、連絡の堪えないスマホ画面を睨みながら言っていたのは記憶に新しかった。今日も昼休みに送ったトークに既読がついたのは、しばらくたってからだった。
     3人のトークグループに集まっている旨を投げると、意外にも一拍置いてすぐに既読がついた。少しの間の後、『これから向かう』と短い返信が来る。
    「仕事の邪魔しちゃいましたかね」
    「マユミくんなら大丈夫じゃないかな、無理なら無理って言ってくれると思う。二人で特訓しちゃうの、悪いし」
    「それは……そうなんですけど」
    「それに、あの人意外と寂しがり屋だから」
     百々人の発言に訝し気に目を細める天峰を笑い、ノートとペンを取り出した。熱かったラテはちょうどいい温度になっていて、内側から温まる感覚とやさしい甘さにほっと息をつく。
     なんとなくノートの中身は見えないようにしながら、互いに応用できそうなポイントを探してメモに目を走らせていく。このポーズは天峰なら活用できそうだ、と目処をつけていると、もう一度通知が鳴った。トークには到着予定時刻の連絡が送られてきていたが、その時間を見て天峰と顔を見合わせる。
    「……早くない?」
    「ですよね。剣羽からここまで近いとはいえ、これもう電車乗ってません?」
     思っていた以上に急いで向かってくれている眉見を考えて、どちらともなく耐えきれなくなり噴き出した。残っていたコーヒーを一気に飲み干した天峰が席を立つ。
    「俺、もう一杯なんか買ってきます。喋りすぎて喉乾く気がするんで」
     レジに向かう天峰の背中を見送り、スタンプでトークに返事をした。かわいらしいひよこが言う『まってるよ』を見たら、眉見の早足が小走りに変わるかもしれない。ほら、やっぱり寂しがりだ、と2人を待ちながら声に出さずに笑った。
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    忸怩くん

    DONE【鋭百】眉見の微体調不良
     乗換を調べてくれているのも、生徒会の議事録に目を通しLINKで修正指示を送っているのも、まっすぐに伸びた背中もいつも通りだ。駅のホームには北風が強く吹き込み耳を切るように過ぎていくため百々人は首をすくめマフラーに埋もれていたが、眉見は意に介さず少し緩めたマフラーから素肌を晒してまっすぐに前を見つめていた。その視線はいつも通りよりももう少し固くて、仕事中の気を張った眉見のままになってしまっているようだ。
     アナウンスが流れると遠く闇の中に眩い光が見え、風と共に電車がホームに滑り込んでくる。ほとんどの座席が空いている中、角席を眉見に譲ると一瞬の躊躇を挟んで小さく礼を言って座り、百々人もその隣にリュックを抱えて座った。こんな時間に都心へ向かう人は少ないのか車内は閑散としており、自分たちの他にははす向かいの角に座った仕事中といったふうの年配の男性だけだ。外とあまり変わらない程度の冷えた車内には、それに抗うよう熱すぎるくらいに足元の暖房ごうごうと音を出しながら膝の裏を熱する。一日ロケをこなしてきた体にはさすがに疲労がたまっているのか、それだけで瞼が落ちて無理やりにでも寝かしつけられてしまいそうだった。隣を見ると夏前の草木を思い起こさせる鮮やかな緑は変わらず揺れることなく据えられている。けれど腿同士くっついたところからは布越しでもわかるほどの熱が伝わってきていた。
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