巳波のラーメン 巳波はラーメンを作るのがうまい。
悠がそのことを知ったのは、あるツアーの最中、地方のホテルに宿泊したときだった。
ライブで味わった熱狂が体から抜けなくて、0時をまわっても寝付けなかった。
そんなとき、悠が甘えにいく相手といえば巳波だった。
備え付けの寝巻きの上にカーディガンを羽織って、スリッパのままで、隣の部屋の呼び鈴を鳴らす。
「亥清さん?」
真夜中の訪問者を、巳波は彼なりに驚いた様子で迎えた。
寝巻きを着て、髪を簡単にまとめている。入浴は済ませている様子だった。
「なんかテンション上がって寝付けなくて。……もう寝るところだった?」
「いえ、構いませんよ。でも、ふふ、見つかっちゃったな」
悠がおずおずと訊ねると、巳波は口元に手を添えてころころと笑った。
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