虹の根本の宝物「虹の根本には宝物が埋まってるって話、にいちゃんとねえちゃんは聞いたことあるかい?」
そんな事をポポイが言い出したのはいつだったか。
それは旅の途中の通り雨。
その後に空にかかった見事な虹を見たからだろう。
雨に濡れた土と草を踏み分け歩きながら言うポポイの声は、晴れ渡った空のように楽しげに輝いていた。
「虹の根本って…そんなの無理よ。そもそも近づいたら離れていくし、あっという間に消えてしまうわ。」
対してプリムはそんな夢のある話など信じないというように息をつく。
現実的に考えれば彼女の言う通り虹の根本なんてものがあったとしてもきっとたどり着くことはできないし、そもそもあるかもわからない。
否定するのも夢がないが、肯定するもの難しい。
そんな気持ちで苦笑する僕に少しだけ細められたヘーゼルの両目が向けられる。
「ねえちゃんも夢がないなぁ、そう思わないかにいちゃん?って、にいちゃんも同じ感じかよー。」
僕の表情に気づいたのか、少しむくれたように膨らむ頬がまぁポポイらしいと思う間もなくそれはすぐにプイとそらされてしまう。
つまらなさそうに蹴られた小石はうまくいかなかったのかコロコロと転がってすぐに止まった。
「でももしもさ、本当に虹の根本に宝物が埋まっていたらポポイはどうする?」
それを力任せにポポイが蹴り上げる前に水を向ければ、もう一度こちらを見たつまらなさそうな目がすぐにまたキラキラとした光を宿す。
「宝物っていうくらいだから金銀財宝だろ!?そしたらうまいもん食べ放題じゃん!!世界中フラミーで回ってさ、食べ歩きとかしたいよな〜」
「なによ、ポポイこそ夢がないわね!それなら私はディラックとのハネムーンに使ったり…その前に結婚式よね!」
「それお宝見つからなくったって姉ちゃんやる気だろ?」
最初の反応に反してすぐ横から飛んで来た言葉に今度はポポイが呆れたように息をつく。
けれども何だかんだプリムもそういう話が好きではあるのだろう。
二人してあーだこーだと咲いていく話は中々尽きず、聞いているだけ僕はそれでも楽しい。
2人の語る夢は僕には良くも悪くも考えることのなかった夢物語。
食い倒れだって、素敵なドレスでの結婚式だって、言われてもすぐには思いつかない。
そもそもそんなことより僕は。
「ランディこそどうなのよ、私達ばっかりじゃなくて教えなさいよ!」
「そうだそうだ!にいちゃんだったらどうするのさ?」
少しだけ考えた瞬間、狙ったかのように二人が僕を見やる。
二人の声は弾んで、なおかつ有無を言わせない雰囲気があって。
それにまた思わず苦笑しつつ口を開こうとすれば、期待に煌めく二対の目が僕を見つめて。
「うーん、宝物って言われても僕はあんまり思いつかなくて…でも。」
一度言葉を切って、少しだけ空の虹を見上げる。
そうすれば二人の視線も追いかけるようにそちらへそらされて。
「宝物より、2人といっしょにフラミーに乗って、虹の根本を探しに行くほうが楽しそうだなって、思ったよ。」
おかげで二人の顔を見ながら言うには恥ずかしい言葉をなんとか口にできた。
少しだけ吹いた風がさわさわと梢を揺らして一瞬の間をかき消す。
「…もう、すーぐそうやって恥ずかしいこと言うのよね、ランディったら。」
「でもいいなそれ!ぜーんぶ終わったらさ、やろうよ!で、宝物が見つかったら、ねえちゃんの結婚式して、そん時はごちそうたくさん並べてさ!!」
「ポポイそれ、プリムをお祝いするより先にごちそう食べちゃったりしない?」
「そんなコト無いと思う、多分?」
「多分って何よ、しかも疑問形じゃない!!」
「へへっ、気にすんなって!な、約束だぜ2人とも!」
そうしてまた楽しく騒がしい声は、虹が消えても次の街までずっと続いてた。
そうして。
黒い夜空に浮かんだ赤く燃える要塞で
神獣を前に橙と黄金の髪が風と熱に揺れる
2人の紡ぐマナの緑が剣を目覚めさせ
薄青に光を宿す聖剣を握りしめてどれだけの時間が経ったのか
夜明けも近づき藍に空が色を変え始めた頃
紫の巨躯から断末魔の叫びが迸り
その身体は白い雪となって世界へと降り注いだ
雨上がりの草を踏み分けて歩く。
あの時と違って足音は僕一人の分だ。
今日も空に虹はかからない。
けれどももし虹がかかったのなら探しに行こう。
約束を果たせるように、君を探して。
また三人で世界を巡れる日が来るように。