あたたかい地獄「地獄って、案外いいところなんですね」
父、瑞雪の隣に腰かけて雪緒は言った。
目の前には手入れの行き届いた庭が夕日に照らされている。
「…お父さんと、こうして会話できると思わなかった」
生前はずっと父が恐ろしかった。自分に向けられる、諦めたような視線も、あたたかいと感じたことのない表情も、抑揚のない声も。
だからだろうか。その正反対に見える将暉に余計に懐いていたのは。
「地獄、ねぇ。…つまり俺ぁ地獄に落ちてるってことかい?雪緒」
「え…」
父の質問に呆気に取られてから
「いや、お父さんが居るんだから地獄でしょ。ここ」
と真顔で答えた。
「お母さんに挨拶できなかったのは残念だけど、まあしょうがない!」
「…お前、随分言うようになったじゃあねぇか」
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