赤ずきん こぼれ話「――今日は薬酒だけなのか?」
いつものように籠から赤く色づいた液体の入った瓶を取り出した弟は、少し動きを止め、疑問を呈した兄にそっけない声で答えました。
「そうだよ」
「ふぅん...珍しいこともあるもんだな」
そのとき、よくよく観察していれば、いつも感情が感じられない弟の声がすこし弾んでいることや、焼き立てのパンの匂いがしていたこと、パンを包んでいた包み紙が籠の中にそのまま残されていることに気付いたでしょうが、エランはぜんぜん、気付きませんでした。
かぴかぴのパンが戸棚にいくつか残されたままのおうちに一人ぼっちで住んでいるひとには、すこし難しかったのでしょう。しかたがないですね。
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