無題「水平線って初めて見たかも」
海の先を見つめる瞳が、なんだか酷く萎縮した様に思えたのは俺の気の所為だろうか。知らない土地に降り立った時、所謂綺麗と言われるものを見た時、或いは体感した時。この大きな瞳はキラキラと波打って、奥の方からじんわりと命みたいな何かが燃えるような、そんな何かを持っていると思っていた。
「…山の方の田舎だったのか」
俺の問い掛けで眉間に皺が寄る。
「悪かったわね」
「悪いなんて言ってねぇだろ」
どうしてこうも普通に受け取ることが出来ないんだろう。思えば釘崎はいつだってそうだ。別に言ってない事を勝手に深読みして勝手に機嫌が悪くなる。それから少ししたらたちまち機嫌は戻っていて、意味のわからない絡みをしてくる時もあれば、そうでない時もある。結局は釘崎の気分次第だ。
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