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    yuyura0

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    本にしたいと思って完結前から温めていましたが、🐯くん相変わらず死んでるし、🐺🌹の過去設定もモリモリにしてしまっていて原作と離れすぎなのでは〜と辛くなって書くのを辞めたので触りだけうっすら載せます
    このお話はになると書きたくなります(少し直したり書き足したりしている)

    #伏釘
    voodoo

    無題「水平線って初めて見たかも」
    海の先を見つめる瞳が、なんだか酷く萎縮した様に思えたのは俺の気の所為だろうか。知らない土地に降り立った時、所謂綺麗と言われるものを見た時、或いは体感した時。この大きな瞳はキラキラと波打って、奥の方からじんわりと命みたいな何かが燃えるような、そんな何かを持っていると思っていた。
    「…山の方の田舎だったのか」
    俺の問い掛けで眉間に皺が寄る。
    「悪かったわね」
    「悪いなんて言ってねぇだろ」
    どうしてこうも普通に受け取ることが出来ないんだろう。思えば釘崎はいつだってそうだ。別に言ってない事を勝手に深読みして勝手に機嫌が悪くなる。それから少ししたらたちまち機嫌は戻っていて、意味のわからない絡みをしてくる時もあれば、そうでない時もある。結局は釘崎の気分次第だ。

    波音が鼓膜を打つ。
    背中を焼くように日差しが刺す。
    じんわりと額に汗が落ちる。
    遠くまで見えるのに何も見えない。



    「恵、野薔薇、戻るよ」
    その声にハッと振り返る。きっと釘崎も同じ様に振り返ったんだろう。目線の先にはここでは尚更目立つ怪しい白髪の男が居た。
    「…砂浜かよあいつの頭」
    思わず吹き出す。確かに、太陽に照らされてキラキラと輝く様はここの砂浜とよく似ている。そうか、目の色も合わせたらあの人は一人でこの海を再現できるのか。ただひとつ、この海の独特の静けさはあの人には出せないだろうが。
    「戻りましょ、伏黒。背中が焦げるわ」
    そう告げて五条先生の元へと歩み出す釘崎の後ろに続く。釘崎の髪も太陽に照らされてキラキラとしているが、砂浜ではない。なんだろう。あぁ…前に読んだ小説のワンシーンに出てきそうだ。海外、暑い日差し、オレンジ畑と、白いワンピース。きっとそれだ、そうに違いないと独りごちた。砂浜からやや急な斜面を上がり、路肩に停めた車の前で五条先生と合流する。
    「どうよ、糸島は」
    「悪くないわね。ついでに有名な映えスポットに寄ってくれたら文句なし」
    「ここじゃないの?」
    「夫婦岩よりこっちが今の流行りよ。ハートのブランコ」
    「え〜、野薔薇縁結びとか興味無いでしょ」
    「なんでよ!縁結びは興味無くても映えには興味満々だっつーの!」
    「ブッブー。残念でした、もう任務のお時間です」
    「いつも遅刻してるアンタにだけは言われたくないセリフ第一位ね」
    機内でせっせと調べていた映えスポットを却下された釘崎は、途端に不機嫌な顔をしている。五条先生を見上げる様にして文句をぶつけているが、五条先生は面白がってるだけだ。釘崎のどんな言葉ものらりくらりと躱していくから尚更釘崎が突っかかる。この感じよく飽きないな、と思いながら勝手に後部座席に乗り込む。背中焦げるって言ったのは釘崎なのにまだ外でやり取り続けんのか?
    「釘崎」
    「なによ」
    「背中焦げるぞ」
    「ッケ!なによ、乗ればいいんでしょ乗れば」
    不機嫌そうに舌を鳴らし、俺の隣に乗り込む釘崎を見て五条先生はケラケラと笑った。それから運転席に乗り込んで、ゆっくりと窓を開ける。
    「んじゃ行きますか〜!糸島呪霊討伐ツアー!」
    最悪だ。何が討伐ツアーだ。最悪の掛け声を笑顔で放った五条先生はゆっくりと車を動かす。隣の釘崎はまだブツブツと文句を言っているがそのうち収まるだろう。チラリと横目で画面を覗き見ると、釘崎は既に次の映えスポットやスイーツを検索している。釘崎もめげないよな。
    「最近さ、糸島も所謂映えスポット系で観光客が増えたでしょ?そりゃもう呪霊も増えるってわけ。ま、今日は低級呪霊しかいないから何件かこなして貰ったら終わりだけどねん。明日は近隣の島のちょっと大きめの任務だから、気抜かないでね〜」
    どこまでも続く海を見ていると、前から飛んできた五条先生の声への反応が少し遅れる。バックミラー越しに目を合わせると五条先生はニヤリと笑った。
    「恵ぃ、海に思い馳せすぎ」
    「別に馳せてませんけど」
    「伏黒ってちょっとロマンチストな所あるわよね〜。この前海外の恋愛モノの小説読んでなかった?」
    「それは関係ねぇだろ」
    「海見て何考えてた?」
    「別に」
    この手の話題に返答をし続けていても面倒臭くなるだけだ。普段から格段に面倒臭い五条先生と、イマイチわかんねぇ面倒臭いキレ方をする釘崎相手じゃ分が悪い。鞄に潜ませていた小説を取り出し目線を落とす。五条先生はまだウダウダと何か言っているが、本を開くと釘崎は興味を無くした様に俺に構ってくる事はなくなる。これが釘崎の嫌いではない所のひとつだ。


    『糸島で合宿?』
    五条先生の思いつきはいつもの事だ。だがこんなにふざけた思いつきは滅多にない。隣で嬉しそうに目を輝かせている釘崎と反して俺はあまり乗り気じゃない。絶対面倒臭い。夏は部屋で本を読みたい…任務以外は。いや、夏じゃなくてもそうだけど。
    『なんで福岡なんですか?』
    『福岡での任務が幾つか溜まってるんだよねぇ。だからその任務で特訓の成果を見つつ、僕が稽古つけてあげる〜』
    『九州地方は京都校の管轄ですよね』
    『京都は今お祭りの時期で忙しいの知ってるでしょ〜』
    『任務で実力確認なら東京でもできるでしょう』
    『もぉ〜恵乗り気じゃないねぇ』
    『行く必要が見い出せません』
    『もう決まったことだからね。野薔薇も恵も準備しといてね』
    『ねぇねぇ!糸島って海綺麗?水着いる?』
    『海は綺麗だねぇ。水着は任せるよ』
    『いらねぇだろ』
    『うっさいわね、アンタには聞いてないわよ!』
    『……』
    釘崎はほぼ観光のノリだ。俺達は合宿という体で、福岡の任務をしに行くだけだぞ。それなのに五条先生と釘崎は楽しそうにケラケラと笑いながら話に花を咲かせている。虎杖が生きていたらこの中に混ざってもっと盛り上がっていたんだろうか。虎杖もきっと糸島は行った事がないだろう。俺もないし、釘崎もない。きっとこうして、俺と釘崎はいくつも知らなかった土地を知っていくんだろうが、虎杖は違う。止まったままだ。仙台と、東京しか知らずにあいつは終わったのか。そう思うと何故か無性に胸が痛んだ気がしなくもない。
    『伏黒』
    その声にハッとして顔を上げると釘崎がじっと俺を見つめていた。
    『なんだ』
    『…帰るわよ。糸島準備手伝って』
    『荷物持ちかよ』
    『文句言うな。行くわよ』
    釘崎は、何も聞かない。あの日の事も、他の事も。小説の内容も、晩飯の内容も。所謂プライベートについては何も聞いてこない。それが心地良かった。無駄な詮索をされるのも過去を浮き彫りにされるのも好きでは無い。俺達は他人同士。それぞれ違う人生を生きてきて、違う価値観を持っていて、それはこの先も交わる事は無い。

    そんな俺達がたった一度だけ、お互いを丸裸にした夜がある。
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