ピーター・グライムズの画廊 神隠し。
稲荷田狐は叔父が経営する喫茶店でその言葉を聞いた。
失踪なんて探偵業に関わっていれば珍しくもない。浮気相手との逃避行、未成年の家出だって失踪で良くあるケースだ。
職業病のせいか聞き耳を立てていると、続けて画廊、と聞こえた。神隠しと画廊。妙な組み合わせだと思った。
「ピーター・グライムズの画廊だよ」
聞き耳を立てている狐に叔父の烏が声をかけた。狐が所属している葛ノ葉探偵事務所の元所長で、昔はかなりの武闘派だったそうだ。小柄ながらしっかりとした迫力のある肉体を、齢六十を過ぎた今でも保っている。
最近レシピを研究しているというフィナンシェを1つ狐に渡す。透明のフィルムでラッピングされたフィナンシェを、狐は不機嫌に突き返した。
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