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    yuma

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    ハドアバ/ガンマトらくがき置き場

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    22年12月のハドアバ新刊 「The WANDERLAST 」の本文サンプルです

    #ハドアバ
    hadabah
    ##ハドアバ

    不思議なランチ会(サンプル) その日のアバンとハドラーは立ち寄った宿場町の酒場で遅い昼食をとっていた。
     時間はずれの薄暗い店内には人影はまばらで、明かり取りの窓から差し込むいくすじかの日の光がアバンの足元まで伸びてきていた。
     六人掛けの広いテーブル席の上には、皿が二枚と飲み物のグラスがある。ハドラーの前にはローストした丸鶏の半身、アバンの前には牛のもも肉の塊、めいめいに付け合わせの柔らかく煮た豆と人参、それから蒸し芋がおおらかに盛られていた。
     長らく野宿が続いていた。自分以外の手によって調理された豊かで温かい食事に、アバンの心は春の陽に誘われて木々を飛び回る小鳥のように浮き立っていた。
     今まさに食事を始めようとしたその時、アバンは入り口に現れた男の気配に気づいた。小柄で魔法使いの装束を身につけているようにみえる。
     目の前のハドラーも野生動物が辺りを警戒をする時のように耳をピンと立てている。あくまで比喩だが、アバンには最近そういう風に見えるようになってきた。
     

     
      
       
        
       
     目抜通りから一本入ったところにその酒場はあった。
     青空の下で、鎖に繋がれた熊の看板が揺れている。マトリフは躊躇いなくその店のドアをくぐると、すぐに目的の二人を見つけた。
     小柄な方がこちらに手を振っている。ズンズンとテーブルをかき分けてそちらへ向かった。
    「いやあ、お久しぶりです。こんなところでお会いできるとは偶然ですね」アバンはわざとらしいほど大きな声でマトリフに語りかけた。
    「ああ、久しぶりだな。
     ……ん? おまえら距離がおかしくないか」
     アバンとハドラーは広いテーブルに隣り合わせで座っている。
    「え? なんですか?」
    「いや、いいわ」
     マトリフはアバンの正面に着席した。アバンはすぐに店員を呼び寄せ、追加の注文を手配した。
    「実はもうひとり来るんです。到着するまで少し待っててください」今度はアバンは声を潜めてテーブル内だけにとどまるようにしゃべった。
    「オレひとりで大丈夫だろ?」
    「この人がどうしても、というので」アバンはハドラーの方をみて苦笑する。
    「オレは貴様のことを信用できるほど知らんからな。それより貴様ら、ちゃんと奴らに気取られないようにしたのか。どうやって連絡したか知らんが、連中、手紙を途中で入れ替えるくらいの芸当はするぞ」
    「うるせえな」
    「公開呪法の符牒を使って連絡したので大丈夫ですよ」
    「なんだ、それは?」
    「第三者に中身を知らせることなく、確実に狙った相手と文書をやり取りするための仕組みです」
    「ほう」
    「せっかくなので説明しましょうか。まず鍵の呪法のペアを作るんですが……ペアの片方の鍵で暗号化した文書はペアのもう片方でしか読み取ることはできない、という仕組みにします。ああ、便宜上鍵と言っていますが、文書を書き換えるための特殊な呪法の一種だと思ってください。
     マトリフも私も自分だけの鍵のペアをひとつ持っています。ペアのうちひとつはオープンにしてあって、誰でも知ることができます。もうひとつは完全に秘匿します。
     マトリフに手紙を送りたい時には、マトリフのオープンな呪法鍵と私の秘密の鍵の二つで文書を書き換えます。
     すると、その暗号文はマトリフの秘密鍵がないと正確な意味を読み取ることはできないし、私のオープン鍵で開けられた、ということは私本人が記した文書だという証明になります」
    「なるほどな、面白い仕組みだ。おまえが考えたのか」
    「いえ、古い文書で仕組みを見つけて、実用化しました」
    「要するに、その秘密鍵というのを奪ってしまえば良いのでしょう」頭上から聞き覚えのある声が降ってきて、マトリフは後ろを振り返った。
     そこにいたのは丸メガネをかけた大柄で筋肉質な男だった。
     声から察するに、ハドラーが魔王だった時代の側近、ガンガディアである。人目につくのを避けたのか、モシャスで人間に化けている。
     ハドラーがアバンに敗れたのち離散し自然解体された旧魔王軍であったが、近年、主従は邂逅を果たしていた。
    「なんでえ、もう一人はおまえさんか」
    「大魔道士」軽く黙礼をして、ハドラーに向き直った。
    「ハドラー様」ガンガディアもハドラーとアバンの方を見て目見張っている。二人の距離感に疑念を抱いたようだった。
    「ああ、ガンガディアよく来たな。そこに座れ」ガンガディアはマトリフの隣に窮屈そうに収まった。
    「では、始めましょうか。あっ、その前に追加のお料理注文しましょうかね」
    「いや、いいから本題を聞こうか」
     アバンとハドラーが一瞬で視線をかわす。渋面のハドラーはそっぽを向いてしまった。
    「ええ、まあお二人にお集まり頂いたのは、これのためなんです」と言って、アバンは右腕をテーブルの上に出した。同時にハドラーもしぶしぶという風に左腕を上げる。
     二人の手首には拘束具が嵌っていて、それだけなら良いのだが、なんとお互いが鎖で繋がっている。
    「外れなくなってしまいまして」
     






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