無間地獄で博麗の巫女が死んだ世界線何も無い…と言うと嘘になるが、ほぼ何も無いに等しい無間地獄に紅い液体が残った。
「あーぁ、激しくやってくれちゃってさ」
死神はそうため息をついた。「また四季様に叱られるじゃないかい」とぶつくさ呟いて。
鬼の半分はけらけらと笑っていた。
「あー楽しかった。まぁまぁ骨のある奴だったし、いい運動になった」
そう嬉しそうに言った。死神はまたため息一つ。呆れたと言わんばかりの表情を浮かべ。
「なぁそうだろう?相棒」
鬼の半分はそう言って紅い液体の付いた肉の塊を見つめているもう一人の鬼に呼びかけた。
「…まぁ、お前は結局本能には抗えなかったって事だよ。仕方がない」
死神はそう言った。その声は届いたのだろうか。そう心配そうにすると、その鬼はふらつき、倒れかけた。
「おま…っ!危ないだろ?!しっかりしろよ!」
間一髪のところで死神が鬼を支えた。距離を操ったのだろうか。その死神が何度声をかけても、鬼は何も言わなかった。
「博麗の巫女が死んだのは、お前のせいだよ」
鬼の半分は、はっきりとそう言った。死神はぴくりと反応して反発しかけた。が、ぽつりぽつりと呟く声がしたので、そちらに耳を傾けた。
「…」
「華扇…?」
「わたし、が…」
きっとそうなるだろうと分かってはいた。だがここまでとは想定外だ。鬼…華扇は死神の身体から離れ、しゃがみこんだ。
「そうよね、私のせいなのよね、あの子ならやってくれるっていう、気の許しが起こした事よね」
「…」
死神…小町は華扇を庇えなかった。華扇が勝手に始めた事だ。小町やその他死神たちに責任などない。
「私なのに私を止められなかったお前が悪いんだもんなぁ」
もう一人の鬼はそうにやりと笑みを浮かべ華扇に言い放った。
私なのに…私?小町には理解出来なかった。だが本人に聞こうものならきっともっと傷つけるだろう。
「私たちの意識は真っ二つに別れてしまった事で、数分に1回くらいに意識が入れ替わったんだ、本体か私か」
そう説明口調で鬼は話し始めた。小町の疑問を察したのか。
「丁度私の時だったんだ、博麗の巫女を仕留めた時に。しかもその時に入れ替わるもんだから、本体はお気に入りの死をしっかり見届けたんだよ」
そういう事か。私を止められなかった、とはそういう事か。
小町は華扇を責めるに責められなかった。
小町は静寂の末、絞ったような声を上げた。
「お前は…」
「いいの、もう、ほっといてくれる?」
すぐに塞がれてしまった。ほっとけと言われても、と小町は華扇の傍を離れようとはしなかった。
「ねぇ、お願いしてもいいかしら」
「…なんだ?」
「ごめんなさいって、言っておいてくれないかしら」
「…っ」
それはお前が直接言えよと、言いたかった。
しかし、今日初めて見た彼女の顔を見ては、同じことは言えなかった。