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物覚えが悪いとか単純だとか色々言われて実際その通りだなって思ってはいるし、何年か経ったからって別に頭は良くなってないんだろうけど、俺はアニキの部屋のドアでだけはノックをする前に一呼吸するようになっていた。
「アニキ、起きてるのか? 入っていい?」
ノックを二回して声もかけたけれど、部屋の中から返事はしない。
ドアの隙間から細い光が漏れてたから燭台はついているみたいだった。そういう時は火の消し忘れが怖いから入っていい、と言われていたのでもう一度アニキ、と呼びながらドアノブを回した。アニキの部屋の鍵は大抵かかっていない。
案の定アニキは床に座り込み、ベッドに背を預けて眠っていた。絨毯の上には何枚もの地図やメモが散らばっていて、次の作戦や人員の配置について考えていた途中で眠ってしまったんだろう。
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