Enchain1.鍵のかかった部屋
「お父さん、部屋に何を隠しているの?」
さりげなさを意識しながら、冬美は父に問うた。久々に夕飯を共にする席に相応しい話題かどうかは、この際あまり問題ではなかった。
「隠す?」
父は義手を器用に使って、煮崩れかけたじゃが芋を箸で掴む。
「書斎に鍵が」
扉には立派な南京錠がつけられていて、冬美は驚いた。この家には他に誰も住んでいないのに。
来客があるとしたら自分か母、元サイドキックか、末弟の焦凍もありえなくはないが頻繁ではない。
ああ、そういえばもう一人、最近は見ないけれど、元公安委員会会長のホークスと。
「貴重品をあの部屋に移したんだ。防犯のためだ」
この家にそんなに重要なものが置かれていただろうか。だが、自分が知らないだけなのかもしれない。引退して久しいとはいえ、一時はこの国のNo.1だった男だ。
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