天使をつかまえて 撮影の打ち上げから帰ってきた那月にぎゅーぎゅー抱きしめられて、それからソファーに座った那月の膝の上に座らされている、俺。腹あたりを両腕でしっかりホールドされて身動きが取れないわけで。俺の背中に額を押し付けてきて、那月の髪(たぶんアホ毛)が首に触れた。
「那月くすぐってぇ」
「うーん……翔ちゃん大好きです」
「ダメだ、会話にならん」
酒に強いこいつが酔って帰って来るなんて珍しい。短期集中での撮影だったらしく、毎日家に帰ってきてはいても早朝に出て夜中に帰宅コースが続いていて。疲労困憊の体に酒を入れたらさすがに酔っちまったんだろうと思う。
ひとつ屋根の下に住んでいても顔を合わせるのは久々だから、俺は俺で不足していた分の那月を充電する。
いま、どんな顔してんだろ……とろんとしてる?それとも、目が据わって砂月みたいになってたりして。こんな姿はまたいつお目にかかれるか分からない。だから、ちゃんと顔を見ときたい気持ちがむくむくと膨らんでくる。
「あのさ、そろそろおりていいか?重いだろ」
「翔ちゃんは軽いから大丈夫ですよぉ」
「筋トレしてっから重くなってるっての!」
「筋肉ムキムキの翔ちゃん……うーん。でもやっぱりどんな翔ちゃんも可愛いですよね。っふふ」
「筋肉ムキムキにはならないから安心しろ」
「あと、僕のそばにずっといてね」
「それはどうだか」
ちょっと意地悪を言ってやる。
「えぇ〜じゃあ天使さんがどこにも行かないようにつかまえておかないと」
腹に巻かれた腕に力が入った。酔って制御不能だった場合、思いっきりやられたらヤバい。天使は、たぶん最近撮影した仕事のことだろう。
「俺はどこにも行かねぇから」
「ほんとに?」
「本当、だから安心しろ」
「良かったぁ」
また額をぐりぐりしてきてくすぐったいけど、愛しくてたまんねぇって思っちまう俺も那月のことが大好きなんだ。