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    Saihate7_15_31

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    Saihate7_15_31

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    甘々ほのぼのノラアシュ。リューネベルクに来たばかりの頃のアッシュとうさぎの話。

    撫でられた頬がまだ熱いアッシュが小さな寝息をたてている。

    ほんのり開いた唇から、規則正しい呼吸がこぼれていた。
    陽だまりに溶けたミルクティー色の髪が、その額にふわりとかかり、やわらかく揺れている。

    彼の腕の中には、もふもふとした真っ白なうさぎ。
    どちらも、木漏れ日の差す小さな部屋の片隅で、丸くなって眠っていた。

    ノーランドは、通り過ぎるはずだった。
    だが、背を向けかけたその瞬間——

    「⋯⋯くしゅん」

    軽い音が耳に届く。
    まだ年若い少年のくしゃみは小さく、まるで甘えた動物の鳴き声のようだった。

    ノーランドは足を止め、振り返る。

    部屋の奥、陽の当たる板の床の上で、アッシュがうさぎを抱きしめたまま、寝言のように「うぅん⋯⋯」と声をもらしている。
    鼻先には、ふわふわとしたうさぎの毛が舞っていた。

    (⋯⋯毛が鼻に入ったのか? それとも寒いのか?)

    ノーランドは軽く息を吸い込む。

    「くしゅん」

    今度は自分のくしゃみだった。
    くすぐったさが残る鼻先を軽く拭って、彼は静かにアッシュのもとへ歩を進めた。

    床に突っ伏すように眠るアッシュ。
    まだ幼さを残すその腕で、うさぎを大切そうに抱えている。
    うさぎもまた、安心しきった様子で、アッシュの胸元で丸まっていた。

    なんと穏やかで、静かな光景だろう。

    ノーランドの口元が、仮面の下でふっとゆるんだ。

    「⋯⋯ふっ」

    笑うつもりはなかった。
    けれど自然と出たその微笑みに、自分でも少し驚く。

    (⋯⋯まったく)

    ふと我に返り、彼はその小さな肩のそばにしゃがみこんだ。

    「⋯⋯こんな所で寝ていたら風邪を引くぞ」

    アッシュの頬に、そっと手を伸ばす。
    冷たくも熱くもない、やわらかな感触。驚かせないように、指先でそっと撫でる。

    「んん⋯⋯ん⋯⋯ノーランド⋯⋯さま?」

    声は小さく、どこかぼんやりしていた。

    ゆっくりと瞼が開き、ミルクティーの髪の奥から金色の瞳が仮面を見上げてくる。
    次の瞬間——

    「ッ⋯申し訳、ございません⋯⋯うたた寝をしてしまったようです⋯⋯!」

    アッシュはぴょこんと飛び起きた。
    うさぎが小さく揺れて「ぴぴ」と鼻を鳴らす。

    「⋯⋯のようだな。小屋も開いたままだ」

    「ッ⋯⋯申し訳、ございません⋯⋯!」

    何度も頭を下げるアッシュ。
    その手に抱かれたうさぎも、きょとんと彼を見上げている。

    ノーランドは静かに首を振った。

    「⋯良い。次から気をつけろ。今日は非番なのだろう?」

    「⋯⋯はい」

    「明日に備えて、体を休めておけ」

    そう言いながら、彼はもう一度アッシュの頬に手を伸ばす。
    今度は少しだけ長く、そして、やさしく撫でた。

    アッシュは肩を小さく震わせ、ぱちぱちと瞬きをする。

    (怒られなかった⋯⋯?)

    いつもなら、もっと厳しく言われてもおかしくない場面なのに。

    それどころか、今日のノーランドは——
    その手は、いつもよりもずっと、やさしかった。

    ノーランドはそれ以上言葉を交わさず、仮面越しに視線を落とすと、すっと立ち上がる。
    上着の裾がひらりと揺れ、静かに扉の向こうへ姿を消した。

    「⋯⋯⋯⋯」

    アッシュはその場に座ったまま、そっと自分の頬に手を当てた。

    撫でられた場所が、じんわりと熱い。
    胸の奥に、ふわりと甘いものが溶けていく。

    「⋯ノーランド様に、撫でられちゃった⋯⋯」

    小さな声でそう呟いて、アッシュは腕の中のうさぎをぎゅっと抱きしめる。

    うさぎはきょとんとした顔で、彼を見上げていた。

    「ふふ、いいでしょ。撫でてもらったんだよ?」

    頬をすり寄せる。
    ふわふわの毛並みが肌に触れて、くすぐったくて、でも心地よい。

    「⋯なんか、へんな感じ。怒られると思ってたのに、優しくて⋯⋯」

    アッシュはうさぎの頭にそっとキスを落とし、顔を毛並みに埋めた。
    はぁぁ⋯と甘い息がこぼれる。

    思い出すのは、あの仮面の奥の表情。
    見えないはずなのに、ふと浮かぶ「ふっ」とした笑み。

    ——いつも冷たいように見えて、でも、本当はとても優しい人。

    頬を撫でる手のぬくもり、落ち着いた声音、何気ない一言の柔らかさ。

    それを知ってしまったら、もう、惹かれずにはいられなかった。

    「⋯⋯また撫でてもらえたら、いいな」

    ぽつりとこぼした声に、うさぎは小さく鼻を鳴らして反応する。

    アッシュはうさぎを抱いたまま、そっと毛布を引き寄せた。

    今度はちゃんと寝台の上にのぼり、小さく息をついて、うさぎを胸元に抱きしめる。

    「⋯お家に帰るまでの間、もう少しだけ君のことを抱き締めてていい?」

    囁くと、うさぎは小さな鼻をひくひく動かしながら、ふわりと身体を預けてきた。
    羽毛のような香りが鼻をくすぐる。

    ごろんと寝返りを打ち、毛布を首元までかけて目を閉じる。
    うさぎのぬくもりが心地よくて、ゆっくりと身体の力が抜けていく。

    ⋯⋯でも、眠るにはまだ少し早かった。

    思い返すのは、ついさっきの出来事。
    優しい声。仮面越しのまなざし。ふとした微笑み。そして——

    (⋯ノーランド様の、手⋯⋯)

    頬に触れた、あの大きな手のぬくもり。
    撫でられた瞬間の、胸の奥のあたたかさを、まだ忘れられない。

    (怒られるかと思ったのに、むしろ⋯⋯ふふっ)

    思わず笑ってしまう。
    毛布に顔をうずめて、くすぐったくて転がりたくなる気持ちを必死におさえる。

    「僕、撫でられちゃったんだよ⋯⋯?」

    うさぎにそっと囁くと、小さな鼻がぴくぴく動いて返事をしてくれた。
    まるで『よかったね』と言ってくれているみたいだった。

    「なんか⋯⋯変な感じ。でも、すっごく嬉しくて⋯⋯ずっと、こうだったらいいのに」

    仮面の奥の顔は見えなかったけれど、あのとき、きっと——
    ほんの少しだけ、笑ってくれていた気がする。

    (ノーランド様って、たぶん⋯本当はすごく優しいんだ)

    うさぎを抱き直し、アッシュはまた毛布の中に身体を沈める。

    「⋯好き、なのかな⋯⋯」

    ふいにこぼれたその言葉に、自分で顔が熱くなる。

    「僕、ノーランド様のこと⋯す、好き⋯かも⋯⋯⋯こんなの⋯⋯おかしいよね⋯⋯」

    誰も聞いていないのをいいことに、毛布の中でそっともだえる。
    頬は赤く、視線はとろりととろけていた。

    (またあんな風にされたら⋯きっと、変になっちゃう)

    ふふっと笑いながら、足をばたばたさせて、うさぎの背を撫でる。

    それでも、やがてまぶたが重くなってくる。

    うさぎの体温。毛布のやさしさ。そして、想い人の記憶。

    夢と現のあわいに揺れながら、アッシュはそっと目を閉じた。

    ——次に目が覚める時も、できればまた、あの人の手に起こされますように——と、願いながら。



    -end-
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