先輩たちの喧嘩は誰も食わない「慶のバカ! あんぽんたん!」
突如として旧体育館に響いた声に、能京高校カバディ部の一年たちは一斉に顔を見合わせる。微妙に古くささが残る悪口を紡ぐ声は、いつも自分たちを優しく指導してくれるそれと完全に一致していて。
「もう! 慶の分からずや!」
一年達の知る限り『慶』と名のつく人物は一人しかいない。そして、彼を『慶』と呼ぶ人物もまた、一人しか知らなかった。
「慶のアホ! おたんこなすー!」
ガラガラッ、と、彼にしては珍しく荒々しい音を立て、旧体育館のドアを開けたのは、我らが部長・王城正人であった。その後ろには、耳を抑えながらうるせぇと呟く井浦の姿もある。
「な、なんだぁ?」
「部長のあんな声、初めて聞いたべ……」
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