わかれ道シラツユの戦闘員や治安維持のヒト達の誘導により、キッカと店長達は地下のひとつへと避難していた。
プライバシーやセキュリティの安全性に欠けること以外、夜のキッカの家と変わりはなかった。
ブキケースに貼ったステッカーを撫で、その中に入れていた黄色いクラゲちゃんのマスコットを抱きしめる。
「みんな、大丈夫かなぁ…」
ミエルは戦闘員兼治安維持も担当しているため、常にここにいるという訳にもいかず、ここへ来てからはまだ顔を合わせられていなかった。ベイトの不安げな声と薄暗い洞窟にキッカも少し気が滅入っていた。
キッカがここへ持ち込んだ物は、ブキ及びブキケース、ホウズキから貰ったクラゲちゃんのマスコット、最低限の日用品、そして…これまで貯金したおカネ。
シラツユの領地内ですら安全じゃないなら、自分で持っていた方がいいと思ったのだ。
俯いていた顔を上げると、キッカですら何年も見ていなかった店長の素顔が心配そうに覗かせていた。
「大丈夫。きっと皆無事に戻ってくるさ」
「うん…。」
そう、大きな戦いが始まった今、何もできない自分はただ祈ることしかできない。
押し黙っていると、店長は意を決したように口を開いた。
「キッカ、この戦いがおわったら、ここを出るんだ。」
「…え?」
店長は続けて言う。
「直後なら混乱に乗じて抜け出しやすいだろう。バンカラ街に知り合いがいるんだ、だから」
「な、なんでそうなるの?それなら店長たちも行くんだよね?」
店長は少し硬直したあと、ゆっくり首を横に振った。
「自分達はここに居すぎた。それに、ジルコを置いて行けないよ…。自分勝手でごめん、でもキッカにはここじゃない所で幸せになってほしい…」
キッカはこれまで店長達のためにおカネを貯めていたようなものなのだ。急にこんなことを言われても更に困惑するしかなかった。
また、店長もその事は何となく理解していて、自分のために使って欲しいとも付け足した。
平行線に進んだ話は、沈黙により終止符を打たれた。
(いつか皆とここを出ると思ってたのに、こんなことになるなんて。)
それが現実となれば、リラやシハンダイ、イオ、シグレにミエルともお別れできずに行くかもしれないのだ。
チャンスであるとわかっているが、まだ皆といたい。
(はあ…。スマホ買っとけばよかった…)
暗闇から出た先に見える景色を決める時は、一刻と迫っている。