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    肝缶ω

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    肝缶ω

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    ドラちゃんはヒナちゃんのこと、完全に「私の」ムーブしてるだろ!ってとこが好きなんですが、実際血とかもらってなさそうだよな。と思って書いたドラヒナ(未満)です。

    フライングですが、ヒナちゃんお誕生日おめでとう!!

    強く美しい私のハムスター(さぁ、そろそろやってくる頃だ)

     トンチキ吸血鬼が騒ぐにはまだ最繁時とは言えない時間帯。言わば、吸血鬼にとってもそれを取り締まる吸対や退治人にとってもウォーミングアップタイム。いつものように、外はサックリ、中はしっとりと焼き上がった極上のクッキーが並ぶ皿が二枚。そのうち一枚を使い魔であるジョンの前に置いたドラルクの予想通り、勢い良く床板に擬態した出入り口が開く。床下から赤毛の少女が期待に満ちた顔で飛び出してきた。
    「クッキーの匂い!!…ではなく、ドラルク!監視に来たぞ!」
    「いらっしゃいヒナイチ君。用意してあるよ。」
     もうとうの昔に、その体裁は意味をなさなくなっているはずだ。
     と、ドラルクは部屋中の甘いバターと砂糖の匂いを押しやる地下の空気に、何やらひどく…美味そうな香りが微かに混ざるのに気が付いた。見ると、床板を持ち上げる彼女の右手首。制服下のブラウスから医療用パッドが微かに覗いている。
    「どうしたんだねそれは」
    「あぁ、これか」
     ドラルクの視線の先に気付いたヒナイチは、床下から上がりながら、バツが悪そうに答えた。
    「昨日農家さんの倉庫で吸血野菜が大量発生してしたんだが」
    「あぁ、ロナルド君が吸血セロリに追いかけ回されるショートムービーがRINEで回ってたね」
     ちなみに、タイムラインに上がったショートムービーは、それなりにスタンプが付いていた。
    「まぁ、その時にだ。情け無いのだがウッカリ噛まれてしまったんだ。いくらものすごい数だったとは言え情けないことだが…ところで!私のクッキーはどこだ!?」
     反省タイムもそこそこに、うきうきとクッキーの在処を探す彼女に、ドラルクはキッチンから彼女用に盛ったクッキーの皿を手渡す。慣れたようにダイニングに着席してヒナイチは美味しそうにクッキーを頬張りだした。アンテナのようなアホ毛をハート型に丸めてしあわせそうに食べるヒナイチの姿は、まるで完全に餌付けされたハムスターのようだとドラルクは改めて思った。
     そう、明らかに私の飼ってるハムスター。なのだが、ドラルクの頭では先ほどからずっと何やら釈然としない違和感が頭から離れない。
     ちんちくりんクッキーモンスターと言えど、彼女は吸血鬼対策課の若きエースであり、戦闘員。下等吸血鬼に吸血されるなんてことは、今に始まった事ではないし、日常茶飯事だ。
     が、彼女の血の匂いを感じたことで、ドラルクは改めて気付いてしまったのだ。美味しそうに自分の作った料理を頬張る彼女は、油断や隙があるどころの話ではなく、完全に手の内にある獲物として疑わなかったのに。
    (私、ヒナイチ君に血を分けてもらったことなくない??)

     どこの馬の骨、もとい何の野菜かもわからん吸血野菜ですら彼女の血を吸ったというのに、毎日毎日クッキーを作って与えている自分は一滴足りとも血をもらっていないという事実に、変な汗がドッと流れてくる。
     世界一可愛い使い魔のジョンが異変に気づき、口をもぐもぐしながらこちらの様子を気にしているが、ヒナイチはクッキーに夢中だった。

     普段ならその満足そうな様子だけで溜飲が下がり、畏怖られ欲が満たされるものだが、気にしてしまった故に今日はそうもいかない。そもそも、とドラルクは思い返した。まだ彼女と出逢ってしばらく経ったくらいの頃は、「仲良くなったら血を分けてもらえるんじゃないか」と考えていたはずだ。
     もう何年も、お釣りが来るくらいは振る舞いをしている。
     美味しそうな血の匂い。出来上がったとも言える、関係性。

     幸い、うるさい若造はフクマさんにより亜空間に拉致されて留守だった。いわば、千載一遇のチャンスともいえる。吸血鬼としての本能が、食欲が、ドラルクの中で静かに湧き上がってくる。
     とうの昔に疑うことを忘れたであろう彼女が、万が一何も察することがないよう、ドラルクはニコニコと笑顔を作って話しかけた。
    「どうだねヒナイチ君。今日のクッキーは」
    「あぁドラルク!やっぱりお前のクッキーは格別だ!特にこのチョコチップクッキーがたまらない!」
    「それは良かった。うーん、なんだか今日は…私も喉が渇いてきたようだなぁ。」
     チラチラと傷口に視線をやると、ハッとした表情のヒナイチの左手が吸対の制服越しに勢いよく傷口を抑え、椅子から立ち上がった。警戒心の浮かぶ顔で、じっとこちらの顔を見た。
    「…いや、すまなかったドラルク。私の配慮が足りなかったな。お前は吸血鬼なのに…」
     ヒヤヒヤしたが、長年のもてなしの効果とも言えよう。罪悪感の方が大きいのがその表情から見てとれた。
     これはイケる。もうひと押しすれば血を分けてもらえるかもしれない。ドラルクの中で期待が膨らんだその時、急にヒナイチが「そうだ!」と声を上げた。
    「少し待っていてくれドラルク!喜んでもらえるかはわからないが!」
     そう言うが早いか、床下にもぐりこんでしまった。

    「ヌーヌヌヌヌヌ?」
     様子を伺うジョン。ハッとドラルクは気が付いた。
    「まさかヒナイチ君…」
     頭の中に、吸血しやすいようポニーテールに髪をまとめ、ブラウスの首元をつくろげたヒナイチの姿が浮かぶ。いつだかの温泉の時に見た、美味しそうな白いなじ。そして今日のあの、特別美味しそうな血の匂い。
     そもそも初めて会った時から、血がうまそうだと思っていたのだ。若造のいぬまに存分に…そう考えようとするが、考えようとするが。ふと不安が頭を過ぎる。
     もしも彼女に「吸血された」とでも報告されようものなら、今後どうなってしまうのだろうか。
     若造にぶっ殺される、のはいつものこととして。彼女の兄である胡散臭い人間チョビ髭がまた胡散臭い行動に出てくる可能性もある。が、何より。
    (彼女がここに来なくなったら?)
     想像するだけでドラルクの胸を、まるで何かがすり抜けてしまうような虚無感が胸を襲った。

    「いーーーや、ダメだろう!!」
     気付けば咄嗟に叫んだ瞬間、勢いよく跳ね上がった出入り口にぶつかりドラルクは砂になった。
    「待たせたな!…って、大丈夫かお前?」
     身軽に床に着地したヒナイチが、心配そうに覗き込んでくる。その姿は先ほどと変わらぬ、制服姿で髪は下ろしたままだ。ただ、手に小さなボトルを持っていた。
    「これを飲んでくれ」
     人型に戻ったドラルクにそれを手渡す。それは180mlの牛乳瓶だった。ぐるりと見回すと、今時のデザインのシンプルなデザインのラベルが貼ってある。ラベルの真ん中には牛が居た。
    「これ、イイやつじゃないのかい?」
     公務員とは言え、二十歳やそこらのヒナイチにとっては日常消費するようなものではないのは明らかだった。
    「そうだ。デパ地下の北海道フェアで売っていた、結構いい牛乳だ!一本400円以上する品物だぞ!本当は自分で飲むつもりだったのだが…毎日ご馳走になるのが当たり前になって、感謝を忘れるところだった。少ないかもしれないがもらってくれ!ドラルクのクッキーは、いつも世界一だ。」
     ドラルクの頬が自然と緩んだ。
     
    「悪くないね。大切にいただくとしよう」
    「それに、だ、ドラルク。」
     まるでエメラルドのように美しい瞳がドラルクをまっすぐに捉えた。
    「私は神奈川県警吸血鬼対策課、ヒヨシ隊副隊長、ヒナイチだ。ドラルク、いくらお前といえども、お前を監視している身。悪いが、安易に血を分けてやるわけにはいかない」
     それは、凛とした声だった。
    (気付いていたのか)
     驚きながらも、ドラルクは安堵した。腐っても吸対ということか。むしろ、腐っているどころか、彼女の場合は。
    「…吸血野菜に吸われておいてよく言うね」
    「うっ…!!だからそれは私が迂闊だったと言っただろう!!」
     その時、ヒナイチの電話が鳴った。
     呼び出されたと残りのクッキーを頬張って、お礼を言いながら外に飛び出して行く彼女を、ドラルクは見送った。

    「ヌヌッヌヌヌヌ?」
     惜しいことをしたとでも言うような使い魔にドラルクは声高に言った。
    「まぁそう焦ることもないさジョン。人間の一生というのは儚いものなのだよ」

    (うむ。誇り高き高等吸血鬼であるドラちゃんが、いささか焦りすぎたな。)

     彼女はまだ無垢な少女だ。そして人間の「若い時間」はすぐに過ぎ去る。今日の彼女は、明日はいないのだ。無理に事を推し進めることで楽しみを得られないのは、勿体無いとも言えないこともない。とまぁ、こんなことを口にしようものならばまた「吸血鬼らしくない」などとヒナイチ君に笑われるのかもしれないが。

    「今はこの、お子様よろしく愛らしいお礼で、勘弁しておいてやろうじゃないか」
     
     安易に分けてもらえることもできない極上の血?上等ではないか。吸血野菜に少しくれてやったところでなんだ。彼女は私の獲物だ。熟成した関係性の末に満を持していただく彼女は、私だけの、特別な。
     そう思いながらドラルクは牛乳キャップを開けた。




    完(ヌン)
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