Angraecum「村雨! これを咲かせろ!」
村雨宅の玄関先。
ドアが開くと同時に、獅子神は顔を出した相手に鉢植えを突きつけた。
艶のある黒髪に、金縁丸眼鏡。自宅だというのに見慣れた服装の村雨礼二は、ちら、と突きつけられた鉢植えに目をやる。
口角を上げて、一言。
「アングレカムか」
「な!?」
「開花は冬頃。ラン科だな。今は屋外で構わないが、寒くなると屋内に入れる必要があるな。5℃を切ると枯死する可能性が……」
「まてまてまてまて」
さらさらと続く解説を、必死に止める。鉢植えを相手に突きつけた姿勢はそのままで。
「見て分かるのか」
「花の名前か? ああ、わかる」
「なんっでだよ!!!」
力いっぱい、憤る。
先日押し付けられたお返しに、何もヒントを与えずに世話をさせようと思ったのに。
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