捉え、囚われる、ちいさな温もり(まおいと) 事の顛末を聞いて、背筋が冷たくなったのはきっと僕だけではないと思う。
「まったく……皆、揃いも揃って危ない橋を渡ってくれたよ」
抱きしめる腕には無意識に力がこもっていたのだろう。まんまと閉じ込められた衣都が苦しそうに、ほふ、と息をついた。
「ほんとうに、肝が冷えました」
彼女の声は静かだった。震えが混じっているのは明白なのに、それを隠そうとする理性のほうが勝っている。
——平静を装うのも、彼女なりの責任感だろう。
ただ、その強さは時に自分を追い詰める。僕には、それが危うく思えてならなかった。
連れてきた僕の自室内。少し遠くに無機質な時計の針の音を聞きながら、彼女の温もりを確認する。
「一歩間違えれば、君だって命を落としかねなかった」
理屈の上では理解している。選択がひとつ変わることで、誰かがあっけなく消えてしまう可能性はゼロにならない。
けれど、彼女に限ればいつだって、計算や確率の問題になどしたくはなかった。
万が一を想像しただけで論理的な思考など放棄したくなってしまうし、直接的に彼女を守る手段がもっとあればと自分を責め立てずにはいられない。
数字や理屈で片づけられない焦燥が、抱きしめる腕にさらに力をこめさせた。
「……ごめんなさい」
「許さない」
「えっ」
本当は冗談めかして言いたかったのに、声音には切実さばかりが募る。
感情を抑えるのは得意なはずなのに、彼女に関してだけは制御が効かない。
「――もう少し、このままでいてくれたら許してあげる」
虚をつかれた衣都は、ほ、と息をついて応えた。
「もちろんです」
――まあいつか、誰かさんみたいに不意にいなくなってしまうのかもしれないけれど。
「真央さんなら、いくらでもどうぞ」
誰もいないこの部屋なら。今は甘い言葉に縋りついても許されるはずだ。