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    uruhoshi66

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    uruhoshi66

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    あた面未満のSS。
    作中に🐙→⚡描写がありますがそこは原作準拠ということで…
    最終的にあた面想定で書いています。ポップアップストアのビジュアル撮影という設定です。

    「くっそ〜〜ジャリテンのやろ〜〜!あいつだけ向こうの控室に移動だなんてずるいぞ!」
    「元はと言えば貴様がジャリテンを挑発してしょうもない争いをけしかけているからだろう!今度こそ衣装が駄目になったらどうしてくれる!」
    「おれだって早くランちゃんやしのぶのドレス姿をこの目で拝みたいというのに…!許せん!後で絶対に仕返ししてやる!」
    「話を聞かんか!!」
    スタジオに隣接された控室。撮影用の衣装に身を包み、メイクやヘアセットなどあらかたの準備を終えたあたると面堂は、決して広いとはいえないその空間で飽きもせず口論を続けていた。
    「そもそもなぜおれが面堂なんかと同じ控室におらねばならんのだ!お前の財力があればスタジオの一つや二つ用意出来るだろ〜が」
    「先方からの頼みなのだから仕方がないだろう。僕だって出来ることなら今すぐにでも貴様をこの空間から排除してやりたいところだが……」
    スーツやドレスなどのフォーマル衣装をコンセプトに行われるこの撮影は、面堂家主催の盛大な催しとも恒例行事とも違うこれまた珍しい案件であった。
    当初は外部から突然舞い込んできた撮影案件に不信感を抱いていたあたると面堂であるが、男女共通のコンセプト衣装、おまけに女性陣は美しいドレスを身に纏って撮影を行うと知るや否や、二つ返事で参加を承諾した。グレーとホワイト、それぞれを基調としたジャケットスーツに袖を通し、スタッフに促されるままメイクやヘアセットなどの施しを受け現在に至る。
    「大体お前は性根が腐っとる。おれが美しく身なりを整えている間も馬鹿にしたように笑いおって……」
    「だってあの諸星がなあ、いやに畏まったスーツを着て……け、化粧を施されていると思ったらおかしくておかしくて……っく、」
    「また笑うかこの陰険タコ!!」
    あたるは控室の机をばんっ、と思いっきり叩いて身を乗り出す。あたるが衣装に袖を通している間も、スタッフから肌や髪を整えられている間も、この男は終始ちらちらと視線を寄越しては馬鹿にしたような笑みを浮かべていたのだ。そのくせ当の本人は雰囲気だけ立派に構えて、フォーマルな衣装を着こなしているのだから腹が立つ。先ほど鏡越しにかち合った視線と、今もなお愉快そうに笑みをたたえるその表情が気に食わなくて、あたるは勢いのまま面堂に掴みかかった。
    「おい何をする!折角整えた衣装が乱れてしまうだろう!」
    「うるせ〜!!お前なんかこうしてやる!!」
    ちゃき、と面堂が自前の刀に手をかけた瞬間、控室の扉がノックされる音が響く。それに続いてスタッフが二人の名前を呼び、「撮影まもなくですので準備をお願いします」とよく通る声で指示を出すのだった。
    「……後で覚えとけよ」
    「それはこちらの台詞だ」
    掴みかかっていた拳と刀を降ろし、二人はお互いを睨み合いながら距離を取る。いくら腹の立つ相手であろうと、美しいドレスを身に纏った女性陣をこの目に拝むという目的を達成するまで撮影を中断するわけにはいかないため、ぶつぶつと文句を垂れながら持ち場に戻るのであった。

    「まったく、襟元が乱れてしまったではないか……」
    鏡の前に立った面堂は、あたるへの嫌味を零しながら再び身なりを整え始める。服装の乱れを正し、オールバックを整え、360度どこから見ても美しく完璧な状態であることを確認すると、ふと机の上に置かれたある物の存在に気付いた。
    「なんだこれは。これも撮影に使うのか?」
    面堂が手に取ったそれは、控えめなダイヤが埋め込まれたシルバーリングであった。蝶ネクタイやスカーフ、コサージュなどと共に用意された、撮影用の小物の一種であろうか。
    面堂家次期当主たるこの僕が身に付けるにしては随分と貧相な指輪だな、と面堂は思った。微かな重みこそ感じるものの、このダイヤの輝き、シルバーの鮮やかさ、面堂家のコレクションには到底及ばない庶民の代物だ。しかしもしこれがラムさんとお揃いの指輪であったとしたら──何とも偶然なことに、今日の僕はまるで結婚式の新郎のような純白のジャケットスーツに身を包んでいる。もしもラムさんが純白のウェディングドレスに身を包み、この指輪を付けていたとしたら、僕達はまるで結ばれた恋人同士なのではないか?──と、その銀色の輝きに思いを馳せるのであった。
    「ふん、あほらし。んなわけがなかろーが」
    指輪を手に取ったまま浮つく面堂を眺めながら、あたるは呆れたように呟く。いくら撮影のためとはいえ、ましてや面堂と揃いの指輪を、ラムが用意するともあっさり身に付けるとも考えられなかった。こいつは本当にめでたい頭のつくりをしているな、とつくづく思う。
    「待っていてくださいラムさん。この面堂、間もなく貴方をお迎えに参ります」
    訳も分からない台詞を発しながらしっかりとその指輪を握る面堂の様子を目で追いつつ、あたるはけっ、と悪態を吐く。どうにも胃がムカついてたまらない。
    「……これも撮影のためだ、仕方がない。しかしいつの日か必ず僕が!この手で!貴方に相応しく美しい指輪を用意しますからね!」
    そう宣言するや否や、面堂はすっと左手を顕にした。かと思うと、右手に握られた指輪を何の迷いもなく、己の左手の薬指に嵌め込もうとするではないか。
    「…………っ!!」
    気が付けばあたるは面堂に駆け寄っていた。考えるよりも先に身体が動いて、その生白い腕をがっしりと掴む。
    「おい、何をする諸星!!」
    この胃のムカつきは何なのか、妙な腹ただしさは何なのか分からなかった。ただこいつが、面堂が、何の躊躇いもなくその言葉を口にすることが、彼の指に銀色のそれが輝くことが、あたるにはどうも許せなかったのだ。
    「はなせっ!これは僕の指輪だっ!!」
    「ええいじゃかましいっ!お前こそ離せ!!」
    必死に抵抗する面堂の腕を掴み、あたるは薬指に鎮座したそれを素早く捉える。その瞬間再び激しい抵抗を繰り返した面堂がバランスを崩して、二人はそのまま派手に床の上へと転んだ。

    「……あ、気絶してら」
    ごちん、と派手な音が響いたかと思えば、あたるの身体の下敷きになった面堂は瞳を閉じたまま気を失っていた。どうやら打ちどころが悪かったらしい。
    直に正気に戻るだろう、寧ろ好都合だと思考を切り替えたあたるは、再び面堂の左腕を掴んだ。気を失っているせいで普段よりずっしりと重く感じるその手の薬指には、未だ銀色のそれが光り輝いている。
    「まったく悪趣味なやっちゃ……」
    あたるはそう言葉を零すと、面堂の指に手をかけた。左手の薬指に指輪を嵌めることの意味が、こいつには本当に分かっているのだろうか。曲がりなりにも有名財閥の御曹司であるお前が。そんなことを考えながら銀色の指輪に手をかけた瞬間、あたるの胸の内にまた奇妙な引っ掛かりが生まれた。
    リングへ触れた指先に力を込めて、嵌め込まれたそれをぐっと引き抜く。こいつの指は存外細くて骨ばっているのだと、あたるはこの瞬間初めて気が付いた。毎日飽きもせず面堂を取り囲む女生徒達も、ラムにしのぶだって、きっとこの事を知らない。ましてやその左手の薬指に光り輝くシルバーリングが嵌め込まれていた事なんて知る由もない。きっとそれでいいのだ。凶暴でプライドが高くて世間知らずで単純な面堂の、男の癖に妙に白くて骨ばった手に指輪なんて似合わない。こうやっておれが奪い返して、面堂の気付かないうちに自分のものにしてしまえばいい。
    まだ微かにあたたかい指輪を静かに抜き取ったあたるは、全てを無かったことにするかのように、銀色のそれをそっと自らの衣装の右ポケットへと忍ばせるのであった。
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