願いなんてとっくに 午後からプロデューサーと打ち合わせがあり、この日は他に予定も無かったので早めに事務所に着いたのだが、これが間違いだった。プロデューサーからは「大変申し訳ないが前の仕事が押していて到着が遅れる」との連絡があり、クーラーには無慈悲にも「故障中の為使用中止」と書かれた張り紙が貼ってある。気休めにと置かれた扇風機はガコガコとぎこちない首振りをしている始末だ。
外の何処かしらで涼を取ろうにも猛暑日の外界は一歩出ようものならすぐさま溶けてしまいそうだ。不幸中の幸いなのは現在他に誰も居らず、暫くは山村も事務所に帰ってくる用事は無いらしい。やや古びた扇風機をずるずるとソファーの側まで移動させ、首振りを止め一身に風を浴びる。これで少しはマシになった、と一息つくとここまで来るのにさんざん日に当たった疲労なのかじわりと眠気が湧き上がって来た。どうせプロデューサーも遅れるのだし仮眠を取ってしまおうと目を閉じた。
1994