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    雨クリワンドロライ
    お題「扇風機」「七夕」
    折角なので両方使わせていただきました

    願いなんてとっくに 午後からプロデューサーと打ち合わせがあり、この日は他に予定も無かったので早めに事務所に着いたのだが、これが間違いだった。プロデューサーからは「大変申し訳ないが前の仕事が押していて到着が遅れる」との連絡があり、クーラーには無慈悲にも「故障中の為使用中止」と書かれた張り紙が貼ってある。気休めにと置かれた扇風機はガコガコとぎこちない首振りをしている始末だ。
     外の何処かしらで涼を取ろうにも猛暑日の外界は一歩出ようものならすぐさま溶けてしまいそうだ。不幸中の幸いなのは現在他に誰も居らず、暫くは山村も事務所に帰ってくる用事は無いらしい。やや古びた扇風機をずるずるとソファーの側まで移動させ、首振りを止め一身に風を浴びる。これで少しはマシになった、と一息つくとここまで来るのにさんざん日に当たった疲労なのかじわりと眠気が湧き上がって来た。どうせプロデューサーも遅れるのだし仮眠を取ってしまおうと目を閉じた。


    「……彦…………雨彦」

     穏やかな声と自分を揺さぶる手に目を覚ます。プロデューサーが到着したのかと思ったが、目の前に居たのはユニットメンバー兼恋人の古論クリスだった。はてと時計に目をやると目を閉じてから二十分も経っていないようで、プロデューサーもまだのようだ。

    「おはようございます、雨彦。あまり風に当たっていても身体に良くないですよ」

     そう言って古論は扇風機をずらし、首振りを再開させた。確かに風に当たり続けていたせいか肩が冷えたようで無意識に摩っていた。
    「おはようさん、古論。お前さんもこっちに用があったのかい?」
    「ええ。……と言っても大したことでは無いのですが……」
     そう言いながら持っていた鞄の中を探る。見たところ保冷加工のしてあるその中から出て来たのは、カップに入った色鮮やかなゼリーだった。

    「先日学生の皆さんが七夕の日の給食の話題で盛り上がっていまして、特別なデザートが出るのが定番だったそうです。私にはあまり馴染みが無かったのですが一緒に聞いていた天道さんや東雲さんが面白そうだと皆さんの話を元に作ってみないか、ということになりそれに私もご一緒させていただいたんです」

     ゼリーを作った後予定の空いていた古論が事務所の差し入れにここまで持ってきたとの事だった。そう言われてみれば今日は七夕だったなと思い返す。

    「よろしければ雨彦もいかがですか?」
    「ああ、丁度暑さで参ってた所だ。助かるよ」

     持って来ていた幾つかを冷蔵庫に仕舞い、テーブルの上に自分たちの分のゼリーがそれぞれの前に置かれている。古論がゼリーを仕舞う間に自分は茶の支度をする。
     水出しの緑茶がボトルに入れてあるものが冷蔵庫にあったのでそれをグラスに注ぐ。猛暑の中から事務所に着いたばかりであろう古論の分はやや氷を多めに用意した。

    「いただきます」
    「召し上がれ。こういったものを作るのは不慣れなので、お口に合えば良いのですが」
    「いや、上出来だと思うぜ」

     改めてゼリーを見てみると、いくつか層に分かれているようで凝った造りとなっているようだ。深い青色の下地に崩したミルク寒天だろうか、白色のそれが天の川のように盛られた周りを型抜きされた色鮮やかな小さなゼリーと共に薄淡い碧色のゼリーで閉じ込めてある。

    「綺麗なもんだ」
    「そうまじまじと見られると、気恥ずかしいですね」
    「……ん、美味い」
    「お口に合ったようで何よりです!」

     上の層のゼリーはレモン風味でさっぱりとした味わいであり、下の青色の層にはバタフライピーが使われているのか混ざるとうっすらと紫色に変わっていくのが分かる。閉じ込められた小さなゼリーも硬さを変えてあるようで食感にも変化があってかなり完成度が高いと思った。流石東雲が一緒に作っただけあるなと感心する。
     ここでふと気がついたのだが、中に閉じ込められたゼリーの形が自分と古論のもので違うようだ。古論が食べている方は星型だが、自分に出されたものには魚型のものがゼリーの中の天の川を泳いでいる。

    「うん、美味い。特別に作ってある分尚更な」

     大方ちょっとした遊び心で幾つかを魚仕様にしてあるだけかと思ったがそうでは無いらしい。目の前の古論がゼリーにスプーンをさしいれた状態で固まって顔を赤くしている様を見てそう察した。

    「バレてしまいましたか……」

     聞けばこの特別仕様は俺のためだけにこっそり仕込んだらしい。渡せるタイミングがあるか分からないが事務所に来る旨をプロデューサーに伝えた時に自分が事務所に居るはずだと聞いて急いで持って来たんだと。

    「あの……他の皆さんには内緒でお願いします…………」


     俺の恋人、可愛すぎる。

     恐らく自分の顔も赤くなっているであろうタイミングに限って、扇風機の風は上手く当たってくれないものなのだ。
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