【ヴァシ尾】ばあちゃんの帰還「キヌちゃんでいいよ」
「は?」
「キヌちゃん……」
「うん」
「ヴァシリ……、ヴァーシャです」
「は?」
「ヴァーシャ」
「うん」
「えぇ……?」
「なんだオガタ」
「いやだって、ばあちゃんもヴァシリも、そんな呼びかた」
「ばあちゃん、アンコウ園じゃ名前で呼ばれてるのよ」
「郷里では親類にこう呼ばれてた」
まあいいけどさ、百之助は席を立つ。その背にキヌちゃんは「お茶はいらないよ。眠れなくなる」、百之助は「じゃあみんな、あったかい牛乳な」あたりまえに応じる。昨日までもいっしょに暮らしていたように。ホットミルクとは呼ばないのが尾形家流だ。冷蔵庫がパタパタいい、チチッと鍋を火にかける音、泡だて器がかちゃかちゃする。キヌちゃんは懐かしく耳を傾け、おおきな目をパチクリさせるヴァシリに「練乳をたっぷりいれるのさ」いたずらっぽく笑いかけた。
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