カップリングなりきり100の質問に答えないと出られない部屋「なあ流川……俺らが帰って来たのって、確かにウチだったよな?」
「っす。午後から買い物に出掛けて、飯食って、さっきセンパイの家に帰って来た」
「マンションの駐車場に車も停めたし」
「車のキーもさっき玄関に置いてた」
流川の言葉に、「だよな」と深く頷く。
「……じゃあ、ここは一体どこなんだ?」
自宅の玄関からリビングへと続く扉を開けた筈が、目の前に広がっているのは全く見覚えのない部屋だった。なんだこれ。一体、何が起こってやがる。
「センパイ、」
無意識のうちに一、二歩、部屋の中まで足を踏み入れた状態で茫然と突っ立っていたら、隣の流川が急に俺の手をぐっと掴んだ。
「ドア、開かねぇっす」
「え?」
慌てて振り返るとこれまた見覚えのないドアがあり、閉じた記憶もないのにいつの間にか閉まっていた。いや、俺の部屋のドア……こんな形状じゃなかっただろ。色だって違う。
リフォーム? 生憎この部屋は賃貸である。
「マジで開かねぇの?」
「ダメっす」
それから実際に、流川は何度もドアを開けようと試みた。背丈が2メートル弱もあるその大きな身体で、勢いよく体当たりするようにドアを押してみたり。かと思えば、両手でドアノブを掴んでめいっぱい後ろに引いてみたり。
流川がどんなに頑張っても扉はびくともしなかった。
「押してもダメ、引いてもダメかぁ。お前ならワンチャン壊せたりしねぇ?」
修繕費用は自腹だろうが緊急事態なので致し方ない。ここから脱出出来なければ、金だって払えない。
「……それも無理そう。さっきからずっとやってるけど、これ、ドアじゃねー」
「……ドアじゃない?」
「何て言うか、壁……に、ドアノブだけくっついてるみてぇな感じ」
センパイもやってみて、と流川が言うので場所を交代する。
「あー……こりゃ無理だわ」
己の手でドアノブに触れてみたら、すぐに流川の言わんとしていることが分かった。押しても引いても、全く手応えというものがない。まるでドアの隙間をコンクリで塗り固めたみたいに……いや、ドアそのものが壁になってしまったかのようだった。
残されたのはただの飾りと化したドアノブだけ。
他に出口はないのかと部屋中を見回してみたが、残念ながら窓は一つもなかった。
──絶体絶命の大ピンチだ。
ゆっくりと流川の方を振り返る。
こんな時ですら俺の恋人は大層美しい顔立ちをしていたが、何時もはきゅっと引き結ばれている口許が微かに緩んでいた。自分たちの置かれている状況を正しく理解したのだろう。
「……マジかよ」
ようするに、俺たち二人は俺の家に帰って来たと思ったら、いきなり知らない部屋に閉じ込められた──ってことらしい。
「……センパイ、あそこ。壁に何か書いてある」
「ん?」
不意に、流川が部屋の奥を指差した。肌は俺よりも白いのに、関節が太いのかごつごつとしていて男らしい手だ。その長い指が指し示す方向を見れば、つい先ほどまでは何も書かれていなかったはずの壁に、誰かが殴り書いたような文字がはっきりと浮かび上がっていた。
"カップリングなりきり100の質問に答えないと出られない部屋へようこそ"
続く