小さな嘘 風呂に入って神様達へのお供えをして。
さて寝るか、と主寝室に入ると『先に寝る』と言っていたフェルがまだ起きていた。
「まだ起きてるなんて珍しいな。眠れないのか?」
そうフェルに話しかけると、じっと俺を見つめながらタシタシと自分の布団を叩いた。ここに来いってことか?
よく分からないがフェルに指定された場所に座ると、突然前足で引き寄せられすっぽりフェルの両足に収まった。一瞬の出来事に戸惑っていると俺たちの周りが淡い光で包まれ、フェルと二人きりの空間になった。
「フェル?」
『我ほどの力があれば、お主の自由を奪って人里から離れた場所に閉じ込めておくなど造作もない』
「まぁ、うん。そうだな」
『だが、お主はそれを良しとしないだろ』
それは俺をどこかへ連れ去って閉じ込めておきたい、ってことか?
「うーん、流石にちょっとそれは嫌かな」
『お主の嫌がることはせぬ。だが、我も我慢しているのだからこれくらい我慢しろ』
……えーっと、つまりそれは本当は俺のこと閉じ込めたいけど、俺が嫌がるから我慢する代わりにこうやってフェルの腕の中にいろ、ってことかな?
なんだ、そんなことか。
本当はこうやってフェルの腕の中にいるの、結構好きなんだけどね。
でも正直に言ったら『何故我だけ我慢せねばならぬのだ』なんて言われそうだから──
「しょうがないなぁ、俺も我慢してやるよ」
これくらい嘘ついたっていいよね。
「あ、でも次からはここじゃなくて別の場所にしてくれ」
ドラちゃんもスイも今は熟睡してるし結界もあるけど、いつ起きるかわからないからね。この状態を二人に見られるのは恥ずかしい。
『良いのか? そんなことを言うと誰もいない場所へ連れて行くぞ』
「でも最後はちゃんとここに戻してくれるんだろ?」
俺もフェルの身体を抱きしめ返すと『本当に、お主には敵わんな』ってぼやかれた。
悪いけど、主導権を譲る気はないからね。惚れた弱みに付け込ませてもらうよ。
「ふふっ……好きだよ、フェル」
はぁ、とため息を吐きつつ俺の顔をぺろりと舐めるフェル。
しっかり遮音されてるし、このくらいは好きにさせてやろう。
狙いを定めたように何度も俺の唇をなぞるフェルの舌を受け入れた。