笑い話にならなかった件 最近、朝の通勤電車で尻を触られている気がするが、なにせあの満員電車だ。どうやっても、周りの人とどこかしらが触れ合ってしまうのは毎日のことだから気のせいだと思っていた。
思っていたが、ここ数日確実に尻に当たる指が意思を持っている気がする。
それでもやはり満員電車だし、男だしな……と思い深く考えていなかったから、ついつい話してしまった。
「なんか最近、朝の電車で痴漢に遭ってるかもしれないんですよね〜」
お昼休憩の席で、お弁当を食べながら笑い話のようにうっかり口にしてしまった。
それを聞いたフェル部長は、持っていたフォークを落とし、すごい形相で詰め寄ってきた。
「どういう事だ!触られているのか?どこをだ!どんな奴だ!」
まさかの反応に驚いて、一瞬ぽかんとしてしまった。
「いやいやいやいや、そんな、ね?俺どこからどう見ても男ですし、勘違いかもしれないですし……ただ最近お尻を意図的に触られてる気がするなぁ〜っていうぐらいですから大丈夫ですよ」
フェル部長の優しさに、ちょっとドギマギしながらもそう伝えた。
「大丈夫なわけあるか!犯罪だぞ!しかもお主を触るとは……わかった。今日から我に送迎をされろ。拒否は認めん」
自分よりも遥かに激怒してる姿を見て、なんでこんなに親身になってくれるんだろう?唯一の部下だからかな?と思いながらも、本当にその日の帰りから送迎が始まった。
「あのぉ、やはり遠回りしてもらうの悪いですし、時間ずらして電車で……」
「却下だ」
数日このやり取りをし、流石に諦めて高級車での送迎を受け入れた。
こんなに良くしてもらってるんだから、仕事できっちり恩返しをしよう!
そう的外れな事を意気込んでいた俺が、この後フェル部長とまさかあんな関係になるなんて、想像もしてなかった。
フェル部長談。
彼奴は自分の魅力を微塵も理解出来ていないうえに、あの無防備さだ。そして鈍い!多少強引な手を使ってでも意識させねばと思っていたら……痴漢など言語道断だ。
ん?彼奴に触ってた輩か?
ふっ…
それより貴重な二人きりの時間邪魔するでないぞ。
おしまい