🐙冬の空気は好きだ。肺を冷えた温度で満たせば、数瞬前の自分とは違ったいきものになれる気がするから。それに、なによりも────
「──やっぱ、タバコが一番ウマい季節やんなあ……」
誰にともなく独り言ち、ふう、と寒さ故でない白い息を細く長く吐き出せば、男は人気のない公園のベンチで脚を組み直す。ここが喫煙所でないことは明白であり、通行人が見たら怪訝そうな目を向けてくるに違いないのだが。
男は何か目的があってそこに座っているわけでも、まして人を待っているでもない。つまるところ、ただの時間潰し。商会でシャケと戦う度胸はあっても、積極的にイカタコと撃ち合って過ごすだけの気力はない。シフト分の報酬も受け取り終えてしまった……そんなわけで、至極退屈なのである。
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