女性が少し、苦手だった。
押しの強い人だと尚更。今はまだマシな方で、昔はあの独特な匂いを嗅ぐだけでも座り込みたくなる程気分が悪くなってしまう程だった。
良くある理由だ。過去のトラウマ。竜の一族なんていう、碌でもない里の碌でもない因習。長の息子であるからと、ある年齢になってから夜な夜な女を送り込まれる日々。世間の常識からは大きく逸脱した行為は、この歳になっても未だ根深く小生の記憶の奥底に巣食っている。
今はもう、自分の交友関係をある程度制御出来るし、そもそもこの歳の男にあからさまに近付こうと思う者も少ない。愛し尊敬する人生のパートナーも得ることも出来、愛される喜びを知る事ができた。
恵まれていた。幸せだった。だから、突然のそれに、自分自身上手く対応が出来なかったのだ。
媚びる様に甘えた声。柔らかな肌。不快に上気した体温。せめて一族の血筋だけでも、と、淡く色づいた口が語った。
失望と吐き気とで、指先がどんどん冷たくなっていく。あの人との夜に感じるものと、こうも違っているのか。女であるだけで。男女であるだけで。
反応するはずもなかった。女は、困惑を浮かべた表情をしていた。
やっとの思いで、声を絞り出す。
「………お帰り下さい。貴女に出来る事はもう、ありませんですよ……」
もう何も視界に入れたくなくて、手で顔を覆い隠す。
僅かな布擦れの音がして、やがてそこには一人の不能な男以外、誰もいなくなってしまった。
「と、言う事があったのです。小生、多分もうコルさん以外に勃起出来る自信がないですよ」
「ワタシは一向に構わんぞハッさん!!!! あぁッ何と熱烈な告白!! まさかこの歳にしてまた貴方に恋する事になろうとは!!!!」
「コルさん、傷心の小生を慰めて下さいますか……?」
「おぉ……ッ、ハッさ……、いっいきなりその様な……ッ!? アッ!? アッ、ヴァン、ギャルド……ッッ!!!!」