おやすみ、良い夢を 不意に出そうになった欠伸を、ガイアは既の所で噛み殺した。
穏やかな昼下がり。薄いカーテン越しに降り注ぐ陽の光は柔らかく、吹き込んでくる風は心地良い。
それよりも何よりも、彼を眠りに誘うのは隣に座る男の落ち着いた低い声だった。耳に良く馴染む心地よい声は子守唄のよう。
「ガイア殿」
声の主に呼ばれ、ガイアは顔を向ける。
「眠いのか?」
声の主である鍾離は、ガイアの欠伸を見逃さなかったらしい。
「そんなことないさ。ただ少し――」
少しばかりばつが悪く大げさに肩を竦めながら口を開いたものの、再び出た欠伸によって遮られる。
ふ、と口元を緩めて愛おしげにこちらを見つめている鍾離と目が合い、ガイアの中にほんの少し悪戯心が芽生えた。
「誰かさんが朝まで離してくれなかったからなぁ」
「む、それは……その、すまない」
やれやれと首を横に振って見せれば、鍾離は視線を泳がせたあと眉尻を微かに下げた。心なしか肩も落としたように見える。鍾離は感情表現の幅が狭く、他人が見れば今も真顔に見えるだろう。けれどガイアには彼が叱られて反省している犬のように見えて、ついふき出してしまった。
「すまんすまん、冗談だ。それに――」
――悪くなかったぜ。
耳元に唇を寄せて囁けば、鍾離は一瞬目を丸くしたあとすぐに微笑んだ。
「ふむ。ならば今日も離さないことにしよう」
離れようとしたガイアは、弾んだ声の鍾離に抱き寄せられその腕の中に閉じ込められた。
鍾離の心音が伝わってくる。
抵抗する気なんて起きない。何故この男の傍は、腕の中にはこんなにも安心できるのか。頭の中に浮かんだ疑問は、再び訪れた睡魔によって奪われていく。
「少し眠ると良い」
幼子をあやすように髪を撫で梳かれてしまえば、抗えるはずもなく。ガイアは重い瞼を閉じた。