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    wsms_sousaku

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    wsms_sousaku

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    空蝉の如くげんみ❌ 不知火組のハッピー日常話

    空蝉の日常 消えた草餅を探せその悲鳴が響いたのは麗らかな春の真っ昼間、東雲でもうたた寝をしてしまうような快晴だった。
    絹を裂くような、といえば聞こえはいいがとにかく甲高く屋敷の者はみな思わず耳を塞いでしまうような悲鳴。
    式神の面々は伸びてきた畑の雑草を3人がかりで抜き切ってしまおう、と集まっていたところだった。

    「今の、梢だよな?」
    「まあこの屋敷にあんな高い声を出せるのはあいつしかいないからな」
    「どうしたのでしょう、まさか敵襲とか……」
    「いやぁ、ないだろ」

    三者三様に声のした方を伺っていると、しばらくしてどたどたとおよそ可愛らしくはない足音が縁側を鳴らしてきた。

    「ねぇ!!誰かあたしの草餅食べたでしょ!!」

    足音が三人に辿り着くなり梢は顔に皺をいっぱい寄せて言い放った。
    間。
    三人の式神はそれぞれの思考を巡らせながら誰が口を開くか、と目を合わせる。

    「草餅って、お昼ご飯の後におやつとして出た草餅ですよね?」
    「そう!あたし洗濯が遅くなっちゃってあとからご飯食べたでしょ!
    草餅はちょっと後で食べよ〜って思って取っておいたらこの有様!!
    どーせ不鬼式がこっそり食べたんでしょ!バカ!!」
    「ハァ!?食ってねぇよ!決めつけんな!」
    「あーん!せっかく雪風が作ってくれたのに!」
    「え?そうだったのか?なら食っときゃよかったな」
    「お前……」
    「ま、まあまあ!」

    ぎゃいぎゃいとヒートアップしていく角四つの間に火垂が入る。
    今にも縁側から裸足で出てきそうな梢をそっと落ち着かせて座らせ、自分も手を拭いて隣に座った。

    「食べようと思ったらなかったんですよね?」
    「うん、そう。
    お皿に置いて厨のテーブルに置いておいたんだけど食器を下げに行ったらもうなかったの!
    絶対誰か食べたでしょ!ていうか、不鬼式が食べたでしょ!」
    「食ってねぇって言ってんだろ!」
    「いえ、僕たちはお昼を頂いた後はずっとここで草むしりをしていました。
    途中で誰かが一人でいなくなった、ということもありません。
    ましてや主や杜松さんでもないでしょうし……不思議ですね」
    「お前が食った後記憶飛ばしたんだろ」
    「そんなわけないでしょ!」
    「主か杜松が邪魔だったから別の場所に移したんじゃないのか?
    不鬼式はいくら腹が減ってても人の草餅取るようなやつじゃない」

    なにやらまた熱が高まってきそうなあたりで、様子を見ていた知卂も加わる。
    とにかく一度話を聞いてみよう、ということで若干面倒臭そうにしている不鬼式も連れ四人で雪風の元へ行くことにした。

    「主、入るぞ」
    「ああ、どうした?さっき梢の悲鳴が聞こえたが」
    「そのことなんだがな」

    知卂が手短に事情を説明する。
    雪風はそれを聞くと目を丸くした後くすくすと笑った。

    「ふふ、屋敷で草餅がなくなったのか、ふふふ、それは由々しき事態だな」
    「ちょっと!笑い事じゃないんだけど!
    ……あ!わかった!
    屋敷になんか怪異が忍び込んだんでしょ!
    それであたしの草餅食べちゃったんだ!!」
    「ハァ……?」

    空気が変わる。
    不鬼式が少女の首根っこを掴んで持ち上げた。

    「お前、主と知卂が張った結界に文句あんの?」
    「いやだって!それしか考えられないじゃない!
    まさか草餅に足が生えて野生に帰っちゃったとでも言うの!?」
    「主と知卂の結界に穴なんてないから足が生えた方が可能性が高い」
    「まあまあ、落ち着いてください」
    「確かに屋敷の結界は前よりも強い。
    しかしまあ気にならないと言えば嘘になるから少しだけ調べてほしい。
    頼めるか、三人とも?」
    「ああ、勿論」
    「ふぎゃ!ちょっと!?」

    パッと手を離されたことで畳に尻餅をつく梢。
    きゃんきゃんと文句を言っているが不鬼式はケロリとした顔で「そうと決まれば日が暮れる前に探そうぜ」と二人に声をかけた。

    「八咫烏に屋敷全体を見てもらおう。流石に草餅の匂いを……とかは辿れないが」
    「もし本当に何かが侵入していたら危険ですね」
    「ヤバいやつならすぐに主が気付きそうなもんだけどな。
    被害もこいつの草餅一個だし」

    八咫烏がカァと鳴いて青空に飛び立つ。
    全員でそれを見守っていると梢が「草餅……」とぽつりと呟いた。

    「そういえば今日の草餅って主が作ったんだって?」
    「う……梢から聞いたのか……そうだが。
    不味かったか?」
    「いや?めちゃくちゃ美味かったぜ。なぁ?」
    「ああ」
    「はい、香りが良くとても美味しかったです」

    雪風が少し嬉しそうに、しかし居心地が悪そうに足をもぞもぞとさせる。

    「なんで黙ってたんだ?言ってくれればもっと味わって食べたのに」
    「いや……その……私も、ここの主だとふんぞり返っていて何もしなかったなと思ってな。
    主も知卂に交代したことだし、私にも出来ることをしようと思って……まずはおやつから、と思ったんだが。
    やっぱり気恥ずかしくなって……」
    「主……」

    三人がまた目を合わせる。
    知卂が口を開きかけたところで、早くも八咫烏が帰ってきてその肩に止まり髪を軽く啄んだ。

    「……何かいる」
    「え、マジでなんかいんの?」
    「いや、怪異という程ではない。
    ただ、僅かに妖気が感じ取れた」
    「何でしょうか……場所は分かりますか?」
    「ああ、厨の床下辺りだ」
    「ほんとに草餅に足が生えてたらどうしよ……」
    「急ごう」

    やや駆け足で厨へ急ぐ三人。
    そこには夕飯の仕込みをする杜松がいた。

    「何?三人揃って。つまみ食いにでも来たの?」
    「杜松さん、厨で変わったことはありませんか?」
    「いや、ないけど……何ガサゴソしてんの」

    厨に着くなり床に置いてあった米櫃やら棚の隙間やらを漁り出した不鬼式を訝しげに見つめる杜松。
    埃が立つからやめてくんない?と文句を言う彼に、火垂が事のあらましを説明する。

    「と、いう訳なんです」
    「はぁ……なるほど……?」
    「うーん、床下収納開けるぞ」

    不鬼式がこれまた無遠慮に厨の中央の床にあった扉を開ける。
    三人で覗き込むが、中には何もいない。

    「ん〜?本当にここで合ってるんだよな?」
    「そのはずだが」
    「何も……あっ!」

    杜松に渡された懐中電灯で中を照らした火垂が、素早く手を差し込んで何かを掴んだ。
    杜松も思わずなんだなんだと視線を向ける。

    「火垂、何かいたか?」
    「はい、これは……」

    火垂が慎重に手を引き抜くと、そこには白い小鼠が一匹いた。

    「うげ!ねずみいるの!?
    最悪、野菜とか食べられてないよね?」
    「これは……」
    「綺麗なねずみですね」

    杜松は慌てて収納にあった食材たちの検品に入る。
    火垂の言う通り、小鼠は野生で暮らしているにしてはとても綺麗で毛並みにも艶があった。

    「こいつだ、妖気を帯びている」
    「え、そうなのか?
    おい、お前、草餅食べたか?」

    不鬼式が草餅の置いてあったテーブルを指差す。
    すると小鼠は言葉を完全に理解している素振りでこくこくと頷いた。

    「こちらの言うことが分かっているんですね!」
    「こいつが結界を突破してきたのか?」
    「さあ……分からない。とりあえず主に報告しよう」

    小鼠は逃げる気がないようで火垂の手の中で大人しくしている。
    草餅の他に食べられたものはなかったようで、杜松は胸を撫で下ろしていた。

    「主、犯人連れてきたぜ」
    「おお、早かったな。それは……ねずみ?」
    「はい、妖気を帯びているようです」

    雪風が立ち上がり小鼠にそっと触れる。
    そしてなるほど、と頷いた。

    「これは館の神気に当てられたな。
    ごくたまにあるんだ、妖怪の素質のある生き物が、強い神気に当てられて生きながらにして妖気を帯びることが。
    おそらく少しずつ妖気を溜め込んでいたところに、私が作った菓子を食べて烏にも検知できるくらいになったのだろう。」
    「そうだったんですね」
    「ああ、このねずみは妖気を取り除いて野生に返そう。
    知卂、頼めるか?」
    「そうだな」
    「ああ」

    知卂が小鼠を受け取り、大きな手で包む。
    少ししてから手のひらを開けると先ほどの真っ白な毛並みはなくなり、山にきちんと紛れそうな薄茶色の鼠が鼻をひくつかせていた。
    縁側から外に離すと、一度だけちらりとこちらを見た後山の中に駆けていった。

    「あたしの草餅、ねずみに食べられちゃったんだ……」
    「いや……まさか私の作った草餅でこんなことになるとは……余計なことをしてしまっただろうか」
    「主」

    しゅんとする雪風の周りを、式神三人が囲む。

    「主は今も昔もふんぞり返ったりなんかしてないし、俺たちのために動いてくれてる」
    「それに、俺たちの主は主しかいないんだから」
    「ええ、主様はいつも僕たちのことを思ってくれてるの、知ってますよ」
    「お前たち……」
    「そーそー!雪風ったらよく無茶するんだから!
    あと草餅は私も食べたかった!」
    「おっ、お前もたまにはいいこと言うじゃねぇか」

    知卂が、不鬼式が、火垂が、雪風に声をかける。
    雪風は顔を上げて三人の真っ直ぐな目を見た。

    「そうだな……。私は私のできることをしよう。
    まずはそうだな、草むしりが途中だったな?
    私も手伝おう。その後は、私が紅茶を淹れるからみんなでお茶にしよう。
    それでどうだろうか?」

    反対の声はなかった。
    春の陽気に、俯いた気持ちは必要ない。
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