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    wsms_sousaku

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    空蝉一応げんみ❌ 不知火の一周年記念ハッピー日常話

    空蝉の日常 新たな仕事の話 そろそろ葉桜も露を帯びる5月の後半、式神三名は雪風に呼び出されていた。
    話というのは仕事の依頼だそうだが。

    「この件は受けるか非常に悩んだんだが……藤見平の者がどうしてもと頭を下げてきたから私も断りきれなくてな……」
    「そんなに難しい任務なのですか?」
    「いや……難しいというよりは……お前たちがどう思うかと考えてしまって……」
    「歯切れ悪いな」
    「そんなに強いのか?」

    式神三名が口々に頭を抱える主を宥めて話を聞き出す。
    そこまで大変な依頼なのか、もしや強敵が、死人が、と三名も流石に不安を感じ始めたところで、雪風は神妙な面持ちで内容を告げた。

    「藤見平の観光人力車をやってほしい、とのことだ」
    「……ん?」
    「……は?」
    「……え?」

    仲良し三人の声が重なる。
    ぽかんとした三つの顔を見てやっぱり言わなきゃよかった、と雪風は額に手を添えるのだった。


    話を要約するとこうだ。
    藤見平、藤が有名な温泉街であるため花の季節である春、紅葉の季節である秋、温泉の季節である冬は観光客も多く賑わうが、夏の集客力がイマイチなんだそう。
    そこで名物として人力車で温泉街を巡るという新たな試みを行うことにしたそうだ。

    「そこでお前たちに声がかかった。
    まあ私が言うのもなんだがお前たちはその、」

    「顔が非常にいいだろう」



    「っしゃせー!
    お姉さん、人力車どうだ?絶対楽しい思い出になるぞ!」
    「料金は1時間2000円だ。写真は俺たちが無料で撮る」
    「町の神社やお茶屋さん、おすすめの日帰り温泉などもご紹介しますよ」

    結果としては大成功だった。
    大成功すぎる、と言っても過言ではないくらい。
    三人の集客力は凄まじいもので、特に今まで温泉街を観光に選ばなかった若い女性たちがこぞって藤見平を訪れてくれるようになった。
    特に宣伝をしたわけでもなく、念のため三人の写真は基本的にNG、撮ってもSNSなどへの投稿は厳禁というルールを作ったにも関わらず、口コミが口コミを呼びあっという間に三人の噂は広まった。

    「あそこは団子が美味いぞ!みたらしも美味いけどおすすめは三色団子。なんか他とは違う味がする!
    っと、ここ段差だからちょっと揺れる、気を付けてな」

    美味しいご飯を嬉しそうに語る表情と細かい気遣いのギャップが虜にさせる不鬼式。

    「そこの温泉は炭酸泉だ。美容面では毛穴の引き締め、ダイエットに効果がある。
    隣の茶屋の抹茶は甘みがあるから苦い抹茶が苦手でも飲みやすい。あそこは……」

    圧倒的知識量で町中を知り尽くすことができる上、質問をすれば何でも答えてくれる姿につい話しかけてしまう知卂。

    「体は冷えていませんか?風を避けるルートというのもあるんですよ。
    今日のお召し物、素敵ですね。そちらに合うアクセサリーがありそうな小物屋があるので、少し寄ってみませんか?」

    つい差し伸べられた手を取ってしまいそうになる物腰の柔らかさと、こちらの喜ぶことを何でも知っているかのような洞察力に目が離せなくなる火垂。

    三者三様の大人気っぷりに、町の人は大喜び。
    雪風は「式神がここまで目立ってしまっていいのだろうか……」と違う意味で頭を悩ませることに。
    そんな彼らが人力車をやるようになって数週間。
    久々に町に降りた雪風が車夫に励んでいるだろう三人の様子を見に行くと、ちょうど昼ごはんで休んでいるところに出会った。
    いち早く気づいた不鬼式が手を挙げる。

    「主!」
    「ああ、頑張っているか」
    「ええ、今日も朝からお仕事を頂きっぱなしで、ようやくお昼です」
    「そうか……それは何より……、んん!?」
    「どうした」

    三人を労おうと近づいたところで、雪風はその足を急に速めた。
    驚く三人をよそに雪風が触れたのは三人が引く三つの人力車。

    「これ、ずっと同じものを使っているのか?」
    「ああ、俺たちは力が強いからそれ用に丈夫なものを作ってもらったんだ」
    「……まずい」

    不鬼式が不思議そうに頭を捻り、火垂も人力車と雪風を交互に見る。
    知卂は少しハッとした後、同じように車に手を当てた。

    「ずっと一緒にいすぎて気が付かなかった。
    これ、神気を帯び始めてるぞ」
    「え!?」
    「それってまずいのか?」
    「簡単に言うと付喪神に近い存在になりかけている。
    お前たちの気に加えて乗客の楽しい気持ちが加わって人力車も嬉しくなってしまってるようだな」

    雪風は少し厳しい顔をして、三人の顔を見た。

    「一度屋敷に持って帰ろう。こいつら、そのうち喋り出すぞ」


    それからしばらく、屋敷で雪風と知卂が人力車にまじないをかけていた。
    曰く本来は長く人間に愛されることで物が付喪神になるが、式神の神気に長く触れていたことと、式神に対する好意、感動などを直近で浴びていたことで、人力車の付喪神化が急速に進んだそうだ。
    数日して屋敷から出された人力車は、雪風によるとちょっとしょんぼりしているらしい。

    「これから車夫の仕事の頻度を減らして、他の人間にもこれを使ってもらうことにしよう。
    あれらにはがっかりさせてしまったが悪戯にこういうものが増えるべきじゃないからな」
    「はぁ……説得に時間がかかってしまった」
    「大変だったんですね」
    「俺らがモテるのも困りものだな」

    と、いうわけで、藤見平を訪れると、運が良ければ少し不思議な観光案内を受けることができるそうだ。
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     目をつぶって深呼吸をしもう一度SNSを開けば、ふたりの結婚を驚き寿ぐネットニュースの見出しがいくつも並んでいた。おそるおそる、検索から侑のアカウントに飛ぶ。先ほど見た報告文の白い画像、そうして今、ちょうどもうひとつ新しい投稿が追加されたところであった。指が勝手に投稿された写真を押してしまう。侑が写真を投稿したら音速で拡大して見てしまうのは、もう癖なのだ。何年も何年もそうしてきたから。そして、スマホの画面に大きく映し出された推しの笑顔に今度こそ涙が出た。
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