尾長ここ最近日がのぼると庭にオナガが二羽やってきて、仲睦まじく餌のやりとりをしているらしい。
「……そうか」
開け放たれた障子戸から、真昼のひざしが短くおちて畳を四角く焼いている。
「あぁ、いつもいつも先に忙しいのが一匹来て、我を見つけては“ぎゃぁぎゃぁ”それはもう、うるさく鳴きやる」
湯呑みが二つ、包みが広げられた桐の菓子箱が一つ。
「……ならば明日にでも小姓に追わせよう。三日も続ければ、いくら鳥頭だろうと思い知る」
先日京へ向かった際に買った手土産なのだが、なんでも店の弟子が作る菓子の方が味もいいらしく、「ぬしが店の名で買わずに味で買って来れるようになってくれればな…」と言われ今にいたる。
今回のこれは、おそらく食の細い自分のために、こう言えば菓子を食うだろうと考えての事だ。
共に城をもつ身ならば、菓子なぞいくらでも代わりはあるし、店や職人をこれと決めて食いたいのであれば自らの配下に命じればいい。だいたい菓子なぞどれも同じだ、と言ったら「いいや違う、さ、食うて味を覚えやれ」とこうなったわけだが。口で勝てる相手ではない。知り合った当初から幾度か本気で口喧嘩をしたが、一度も勝てたためしがない。
それにこの友は、ごく親しい間柄でしかワガママを言わない。
冗談や軽口を叩くことはあるが、たいていは相手と距離をおくためにわざと嫌われるような言葉をえらぶ。
くどくどと並べ立てる事は好かん。とにかく、なんだか相手にいいように丸めこまれている気はするが、目の前の長い付き合いの友に丸めこまれた所で、なんの嫌悪も生まれやしないのだ。
自分でえらんだ菓子を自分で食うというのも妙なものだが、仕方ない。
可愛らしい鳥の形をした干菓子を持ちあげ、頭をかじる。
ぽり、と可愛らしい音で折れた小さな砂糖の頭は、舌の上を冷やしながら甘味をひろげていった。
「やれ、三成……我は鳥を追い払って欲しくて話をしたのではないぞ?」
甘味を茶で押し流していると、呆れたような声がかえってくる。
「人なぞ使わずとも、数珠で一突きすれば永久にさよならよ」
それもそうだ。無言で相手のいいぶんを肯定しながら、高い庭木の枝をながめていた視線を戻すと、糸のように細めた目と視線がかち合った。
なんとなく気恥ずかしさを覚え、まばたきながら畳へ目をやる。咳払いのかわりにフンと鼻を鳴らすと、あちらもフッと息をもらして笑ったようだ。
性格の相性と付きあいの長さが相俟り、最近ではお互いが何を思っているのか大体は感付くようになってしまった。
戦の時ならばこれほどに便利な事はないが、普段からこれではまるで。
「遅れて来る方のオナガは枝にとまったきり、忙しい方が運び来る餌を大人しく待っていてなァ」
まるで我と三成のようだと思ったゆえ。
まぶたが火照ったような気がして、手の平で目元を覆いおさえる。
「どうした三成」
「……日が強くて目が眩んだ」
「…………ヒヒ、さようか」
目元を隠したまま瞑っていると、先日の戦の最中の事を思いだした。
『三成の羽織りは、後ろから見ると鳥の尾のようよな』
ふと、可愛らしいさえずりが耳をつつく。
刑部が庭のほうを向いたような気配がして
「やれ、噂をすれば。三成、今日は二匹揃って来やったぞ」
オナガ