無題「よぉ」
一日が終わり帰路に着いた途端、かけられた声を無視して進む。左之助は返事が無くともその後ろをついて行った。
「何の用だ」
「これじいさんが持ってけってよ」
ちゃぷんと徳利の中身が泳いだ。真意を見出せない斎藤に左之助は続ける。
「昼間の、あやめのじいさんだよ。孫がお世話になりました、だとさ」
昼食を終えて署に戻ろうとした矢先、呼び止められた。周りの大人たちが優しく声をかけてもただ泣きじゃくる幼児が輪の中にいた。これでは埒が開かない。警官さんお願いしますよ、と押しつけらる形で保護した、までは良かった。
「〜やぁ!かえるっ!ぅえっひっぐ・・・」
自分の顔を見上げるなり、火をつけたように泣き叫び始めたのだ。小さな身体のどこにその声量があるのか、努めて穏やかに接したがその場凌ぎの取り繕いは通じず八方塞がり。
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