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    †小瀬†

    @0se_zzz

    夢創作について扱っております。単語の意味が分からない方は閲覧非推奨です

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    †小瀬†

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    政府VS文ご~で司書は政府側についたうえで死にかけている司書を看取る先生の話
    ※司書死ネタ

    失血死は死ぬまでが長い。
    ゆっくりと冷えていく体温を感じながら、そんなことを思った。生から死へと色濃くなっていくグラデーションの中で、これいつまで生きていればいいんだろう、と間抜けなことを悩んでしまう。意識は何処までが意識なのだろうか。死へと傾く天秤が釣り合いを完全に失うまで、生はなにを思うべきなのだろう。でももう助かりはしないのだろうという確信があった。ああ、はやく死んだ方がいい。尽きる寸前の炎が大きくなったところで、燃え尽きたら結局終わりなのだ。
    終わりとは存外退屈なものだ、と気を抜いた。
    私は目を瞑ろうとした。痛みは遠く、ただ漠然とした眠気が身体を包む。
    ――が、人生は時折恐ろしいまでに生ぬるい。

    「……司書殿!」

    慌ただしい足音と共に慣れきった声音が耳に届く。森先生だった。憔悴した声をあげた彼は咄嗟に私を抱き上げようとして、たたらを踏んだ。立ち止まる。足元を濡らす血に気が付いたのだろう。
    「貴方は……」
    その声の震えに、私は笑ってしまいそうになった。どちらが先に刃を向けたのか、分かっているはずだろうに。彼が腰に携えた軍刀の鎖は外されてもいなかった。ここが図書館だから抜いてはいけないという規律を未だに守っているのだとしたら、彼の善人具合に呆れてしまいそうだった。
    「何故、こんなところで……」
    血の海を厭わずにしゃがみこみ、それでも彼は私の表情を窺おうとする。こんな場所で死にかけている理由を言うつもりはなかった。私は彼らの武器によって傷付けられることはないという秘密と、私が今ここで倒れている意味は、最早彼らとは関係のないことになりつつある。
    喉が掠れた息を吐きだす。まだ声は出せそうだった。
    「……せんせい、」
    どうしてこんなところに。
    中野先生はどこへ。
    あなたは私のことを。
    たくさん尋ねたいことがあったが、すぐにすべてどうでもよくなった。先生がこちらを向いていた。顰めた眉の下にある瞳は意外なほどに弱った光を宿している。握り締めた槍の切っ先は床を向いてふらふらと揺れている。
    彼の剥き出しの柔い心に触れている気がした。
    きっと今なら酷く傷つけられてるだろう。刃を突き立て、膜を引き裂いて、生涯治らぬ傷をそこに刻むことだって。
    「…………」

    でも、そんな気にはならなかった。
    「……きのこたけのこでいうと、どっちが好きですか」
    「そ……それは、この戦いと深く関わりがあるのか?」
    「いや別に……」
    「は……?」
    戸惑っている先生は面白かった。愛らしい、と思う。そうして愛おしいとも思った。朦朧としてきた頭は余計なことを押し出して、素直に答えを出す。
    だから、置いていってあげよう。
    「わたし、ずうっと、どうでもよかったんですよ」
    「……」
    「政府に従うことも。文学を守ることも。侵蝕者を倒すことも。文豪を転生させることも」「一緒に言葉を交わすことも。同じ時間を、過ごしてきた毎日も」「全部嘘で、演技で、ほんとうはずっと」「つまらなかった」
    彼の背負う荷物はいつも大きすぎる。彼の後ろをしずしずと歩く、その列に加わろうとは思えなかった。
    もう口が上手く回らなくなってきた。視界に靄がかかったように不明瞭だ。
    先生がどういう表情をしているのかは分からなかった。
    私はたぶん微笑んだ。
    「だからあなたも」
    どうでもいい。
    そう言ってから、今度こそ目を瞑って、離れていく意識に身を任せるようにして気絶した。
    先生がいたから、最期まで退屈じゃなかったな、と思いながら。
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