Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    6時半のラッコ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 39

    6時半のラッコ

    ☆quiet follow

    TRPGの散文

    ディスコに貼ったものです
    手直しがちょいちょい入ります

    TRPG散文「マタギ再び」
     傘に落ちる雨粒がやけに高い音を立てていた。
     目の前でしゃがみ込む椿の前には、滅多刺しにされた男性が横たわっている。素人目に見ても死んでいた。
     静かな夜だった。
     狐は雨に希釈されて流れてくる男の血液を踏まないように足をずらした。血液が触れる事により厄介事になるという考えというより、本能的な嫌悪からだった。
     声をかけるんじゃなかった。
     和真の養女だからといって変な親切心を出したのが間違いだった。
     パタパタパタパタと雨が傘に弾かれる。椿は大粒の雨に無防備に打たれていた。
    「君、何それ?」
    「彼氏ぃ」
     舌足らずな子どもっぽい声で椿が狐の方を見ずに言う。とろりとした目は絶命した男に向けられていた。
    「彼氏が浮気してて、あたしの方がいいじゃんって言ってるのに喧嘩になって殺しちゃった」
     痴情のもつれ。探偵業をしているとそういう現場は何度か経験する。
     それにしても殺すかね、普通。
     急に口寂しくなってきて、煙草を吸いたくなった。シガレットケースを取り出そうとし、路上喫煙になる事を思い出し狐は喫煙を諦めた。吸えない紫煙の代わりに、長い溜め息を吐く。
     ずぶ濡れの椿を傘の下に入れる。今度は狐が頭から雨を被ったが、妙に自暴自棄になりたい気分だった。
    「君の彼氏は正しい判断をしたんだね。…そして、正直者は馬鹿を見た訳だ。どうするの、警察呼ぶの?」
     八つ当たりなのか、なるべく椿を傷付けるような言葉を選んだ。椿は特に気に障る様子も無く、男を見て微動だにしない。
     こういう時、一般人は速やかに警察に通報しなければいけない。スマホを取り出し緊急通報の文字を押そうとした時、不意に和真の顔がよぎった。手が止まる。
    「和真さん呼ぶの?」
     なぜ和真を呼ぼうと思ったのかわからなかったが、なんとなく口から言葉がこぼれてしまった。和真を呼んだところで何になるのだろう。和真だって警察に通報する以外の手段は持っていないだろうに。
     濡れた前髪を伝ってスマホの画面に雨粒が落ちる。
    「…どっちもだめなの。殺しちゃったから、宮村呼ばなきゃ」
    「誰、それ?やっぱり和真さんを…」
    「だめなんだってば」
     思いの外に椿が強く断言する。その迫力に圧されて狐は黙った。

    「選択肢を選んでください」
     宮村を探す
     和真を呼ぶ
     警察を呼ぶ
    →マタギを探す

     そうだ、あの時のマタギだ。
     狐はふと思い出した。あの時、熊をうまい具合に処理をしてくれたマタギに頼めば良いのだ。人間も熊も似たようなモノだろう。
     背中から声が聞こえた。
    「お困りかね?」
     狐が振り返ると、そこにはあの時のマタギがいた。
    「すいません、今度は人殺したんで何とかしてください。今回は本当に死体遺棄と死体損壊ですが1回も2回もおんなじでしょ?」
    「おう、死体遺棄と死体損壊?よくわからんがいいぜ!」
    「やったぁー、おじさん大好きぃ!」
     その後、狐は椿を和真の所に送り届けた。あれから殺人事件のニュースも流れない。きっとあのマタギが何とかしてくれたのだろう。
     マタギって凄いなぁ。…正直よく知らないんだけど。
     あの夜、椿が何をしていたのか。狐はすっかり聞きそびれてしまった。
     探偵事務所の喫煙所で煙草に火を点ける。ようやく吸えた煙草の煙を細く吐き出し、狐はあの夜の記憶を煙らせた。

    マタギエンド
    生還報酬SAN1d6回復


    「客観的に見ると僕は不気味だ」
     いつも通り、狐は困らせたい一心で早乙女の左袖を握った。
    「早乙女さん、結婚しよう」
     狐の想像では早乙女は小さな溜め息を吐いて「あー、ハイハイ」と呆れる予定だった。しかし、その日の早乙女は違った。ちらりと狐の方に目をやり「結婚するか」と何でもない事のように言ったのだ。
    「はぁあぁああ?!」
     自分でも驚くような声が出た。
     二、三歩後退る。
    「はぁあぁああ?!」という悲鳴のような声が止まらない。周囲から野鳥が飛び立ち、一斉に犬が吠えだした。
     普段自分が言っている事を客観的に見てしまい、あまりの気味の悪さにSANc1d3+1
    (普段ボケない早乙女からのボケに固定値が入ります)


    「異色のバディ」
     立入禁止のプレートが掛けられた扉の向こうの様子を、狐が聞き耳を立てて探る。
    「誰もいないみたいですね。特に機械の音もしていないです」
     早乙女がそうか、と頷く。
    「よし、行くぞ」
     その声を合図に狐がドアノブに手を伸ばそうとすると、素早く早乙女が先にノブに手を掛けた。思わず振り返ると、早乙女は呆れたような顔をしていた。
    「毎回言わせるな。あんたは俺の後ろ」
     ぐいっと肩を引かれ、後ろに庇われる。いつかの村の公民館での出来事を狐は思い出した。
    「早乙女さん、覚えているの?」
    「忘れる方が難しいな」
    「…ふふっ」

    〜探索中〜

     突然ドアが開いた。続いて男の声が部屋に響く。
    「誰かいるのか?」
     足音が部屋の中に入ってくる。どうする?と二人が視線を巡らせるが、身を隠せるような場所が見つからない。
     足音が近付いてきているのを感じ取った狐は、壁に自らの背を預け、早乙女の体を引き寄せる。距離を取るために早乙女が右腕を壁についた。丁度、恋人同士がキスをするような格好になる。
     狐がお互いのネクタイを素早く緩めた。
    「おい…!」
    「静かに。僕に合わせて」
     狐の囁きの後に、足音の主の声が続いた。
    「おい、あんたら何やってんだ!」
    「あぁ、すいません。ちょっと我慢できなくて」
     ねぇ、早乙女さん?と狐はわざと甘えるような声と視線を早乙女に向けた。
     恋人の逢瀬だと勘違いしたのか、二人の格好を見た男はあぁ…と理解したかのような、うんざりしたような声を漏らす。
    「ここは立入禁止だ。他所でやれ」
    「本当にすいません。行こう。やっぱり部屋が良いよ」
     ぐいっと狐が早乙女の腕を引っ張る。足早に部屋を立ち去り廊下に出ると、特に追手がいない事を確認した。
     二人揃って溜め息を吐く。
    「…何とかなったね」
    「…あんたのお陰、だな」
    「ああいう時はね、見てはいけないモノを見てしまったという相手の罪悪感を利用するんです。…で、続きはどうします?」
     狐がネクタイの大剣を揺らす。早乙女はさっと綺麗にネクタイを締め直した。
    「あー、はいはい。また今度な」
    「…ざんねーん」
     意地悪そうに目を細め、狐はネクタイを締め直した。


    「夜歩く」
    〜後味が悪い探索後〜

     ひんやりとした空気が流れていた。それは季節の所為でもあったし、自分達の関係の所為でもあった。
     深夜の住宅街を、狐は夜一と歩いていた。
     猛烈な夏の暑さから突き落とされるようにして訪れた秋の寒さは、二人の沈黙の重苦しさをより際立たせている。
     街灯に照らされた二人の影がアスファルトに伸びていた。狐は夜一の半歩後ろを歩く。夜一の影が爪先のすぐ前にあったが、それを踏まないように歩いていた。それが二人の適切な距離だと思っていた。
     二人の間に流れる重苦しさは、先程二人で巻き込まれた怪異の結末にも原因があった。少なくとも、狐の口を重く閉ざすほどの後味の悪さだった。
     ゆっくりと息を吐く。吐いた息はまだ白く煙る事はなかった。思っている程気温は低くはないようだ。
     何度か躊躇った後、狐は乾いた声を出した。
    「…先生は、アレが正しかったと思いますか?」
     狐が夜一の背中に問いかける。どうしても胸につかえるこの重さに、夜一に何か答えをもらいたかった。答えをもらえる事で、自分の中で何か整理がつけられるのではないかと思った。
     先生、僕に答えを頂戴。
     狐の懇願にも近い思いに気が付いたのか、単純に話しかけられたからなのか、夜一が振り返った。
    「あれが最適解だったと思いますよ」
    「それでも僕は納得がいきません」
    「…もう終わった事ですから、今ここで議論をしても仕方がないでしょう」
     夜一の落ち着いた、たしなめるような声が狐の心を逆撫でた。早足で夜一を追い抜き、進行方向に立ち塞がる。今夜、ようやく正面から夜一の顔を見た。黒目がちな瞳が何の感情も無く狐を見ている。
    「あんな終わり方で先生は納得しているんですか?ねぇ、先生は何を思っているんですか?」
     狐の責めるような、噛み付くような質問に夜一は表情一つ動かさず、じっと狐を見つめていた。暗い瞳がのっぺりとした底なしの漆黒を湛えている。
     薄い唇が静かに言葉を紡いだ。
    「…僕は何とも思いません」
     鬱陶しい程に無感情なその物言いは、いつも狐の癪に触った。


    「いつかの相棒」
     夕暮れ時、雑踏の中で夜鷹は見覚えのある後ろ姿を追いかけた。背が高くて、髪を後ろで一つに纏めている男性は一人しか知らない。
     小走りで人混みを縫う。仮装した人々にぶつからないようにクルクルと体を翻すと、まるでダンスをしているような気分になった。今日は幸いにもハロウィンだ。踊っていてもおかしくはないし、実際ステップを踏むように彼の背中を追いかけるのは楽しかった。
     ロングコートの背中に追い付くと、夜鷹はトンっと軽くその肩を叩いた。
    「早乙女さん、トリックオアトリート!」
     早乙女が少し驚いた顔で振り返った。夜鷹はしてやってりとばかりにニヤリと笑う。
    「久し振り。仕事?」
    「あぁ、あんたか。久し振りだな。見ての通りハロウィンの巡回だ。どこに人が流れるかわからないからな」
    「そっか、警察って忙しいな」
     くるりと夜鷹が群衆を見回す。魔女やゾンビに混じってアニメやゲームのキャラが暗くなりかけた街を歩いている。まるで今日だけ、仮想と現実の境目が曖昧になってしまったようだ。
     店先から聞こえてくる音楽に合わせて体を揺らし、夜鷹は世界が夜へと向かう高揚感を楽しんでいた。
    「あんたは?」
     低く、早乙女の声が問う。それを境に早乙女と夜鷹の間に冷たい緊張が走った。
     雑踏、足音、歓声。それらが緞帳の向こうにあるように感じられる。
     しっかりと早乙女と視線を合わせる。厳しい眼差しに夜鷹は大人しく刺された。
    「…仕事」
     夜鷹の小さく短い答えに、早乙女の顔が険しくなる。埋めようのない亀裂が二人の足元に確かにあった。
     弁解するように夜鷹は肩を竦める。
    「仕事ってもね、悪い方じゃないよ。手品のショーに呼ばれてんの。…じゃ、俺行くよ。俺と一緒の所、見られちゃマズいだろ」
     じゃあね、と夜鷹が手を振って背中を向けるとおい、と肩を掴まれる。
    「忘れ物だ」
     夜鷹の前に突きつけるようにして早乙女がカボチャのバスケットを差し出した。
    「何これ?」
    「警察でも子供向けにお菓子を配るように言われている。まぁ、あんたは大人だけどな」
     覗き込むとバスケットの中には個包装されたお菓子が入っていた。早乙女がバスケットを揺らす。
    「好きなの1つ選んで良いぞ」
    「あぁ、うん、ありがとう…」
     夜鷹がチョコレートを1つ取る。特に珍しくもないメーカー品だったが、しげしげとそれを眺めた。
    「…警察にお菓子貰うの初めて」
    「そうか。今日はお菓子を貰ったんだから、悪さはしない事だな」
    「あぁ、そういう事ね…」
     夜鷹が呆れたような、合点がいったようなため息を吐くと、早乙女はフッと笑った。
    「じゃあな、ショー頑張れよ」
    「早乙女さんもね」
     すれ違いざまにお互いのコートの裾が触れた。
     夜の帳が下りる。人々が素顔を隠す黄昏時、怪盗と刑事はそれぞれ偽りの群れの一片になって別れた。


    「とある男性の後悔」
    (裁判がわからないので雰囲気だけ…)

     藤堂和真の裁判が始まった。
     狐は和真が全ての罪を認めた瞬間、血の気が引いていくのをしっかりと感じた。指先が冷たくなり、感覚が無くなる。
     裁判官の口から全く知らない女性の名前が何度も出た。それが藤堂椿だと分かるのにしばらく時間が掛かった。そうして彼女の生い立ち、和真がした事が語られる。和真はそれも全て認めた。
     気絶しそうになる。椅子に座っているのも一苦労な程に、全てが遠くなっていた。
     閉廷が告げられる。狐は和真を目線で追いかけるが、和真はこちらを見なかった。口を真一文字に結んで、別人のように冷たい顔をしている。そのまま警察官と共にドアの向こうへと消えていった。
     何も考えられない頭で、ふらふらと足が動くままに裁判所を後にする。道中、行き交う人に何度かぶつかった。
     ぼんやりとする狐の肩を、和真の幻が叩く。
     …君は優れた探偵です。
     和真の声が、力強い目が今でもあの日のまま心の中にある。
     …クズだから、何してもいいんだよ?
     椿の声がする。泣き腫らした目が狐を見ている。
     良くないよ、良くないよ。何も良くない。
     狐は流れる涙を拭うことも忘れて早足で歩いた。今、胸を満たしているのは和真への失望でも、騙されていたという怒りでもなく、椿への深い後悔と同情だった。
     ごめんね、ごめんね。
     乱暴に手の平で頬の涙を拭う。それでも涙は止め処無く溢れた。
     もっと早く、抱きしめてあげれば良かった。大丈夫だからと言ってあげたかった。
     今更そんな事をしても何にも変わらないと知っていても、それでも今、しっかりと椿を抱きしめてあげたかった。


    「ひとつの愛」
     誰からも愛されるものって何だろう?
     ショッピングモール内を散々に連れ回され、ようやく噴水広場で休憩をとらせてもらったときに、狐は何の気無しに椿にそう質問をした。
    「あたしに決まってんじゃん」
     堂々と胸を張る椿に若干苛立ちを覚えながら「僕は君を愛していない」と狐は切り返したのだが、そこから妙にきまりが悪くなった。
     少しの雑談の後、椿が口を開く。
    「誰からも愛されるのはあたしだもん。あたしはその人の可愛いになれるから愛されるの」
     信念のような、強迫めいた響きを持つ言葉が紡ぎ出される。
    「愛されるために変身するんだ」
     …ありのままの自分は愛されないって言うの?
     そう聞き返したかったが、その話題はそれきりになってしまった。椿がどういう思いでその言葉を選んだのかはわからない。しかし、その言葉は狐の心を深く刺した。
     ふと、大学時代を思い出した。椿の求める愛というものが情交だとすれば、あの頃の自分と感覚が近いのだろうか。誘われれば誰とでも寝たし、乱暴にしたりされたりもした。ヘドロまみれのような生活はそれなりに楽しかったが、どの女性も顔が思い出せない。せいぜい初めての相手の体を覚えているだけだった。
     そうして最後は、全ての女性を自分から嫌いになって遠ざけた。もう、誰がどうなったかなんて知らない。
     …なんてお粗末な愛。
     今思い出せばあれは愛でも何でもなく、ただお互いに肉体を貪るのに丁度良い相手なだけだった。つまり誰でも良かったし、相手も同じ様な思いだったのだろう。
     半歩先を歩く椿を見る。
     …ほんとはあんたも寂しいんでしょ?
     繁華街の路地裏。恋人のように抱き合って喧嘩をした夜。背中に絡みつく椿の指先を、今でも鮮明に思い出せる。酷い言葉を浴びせかけ、家に追い返した夜も覚えている。それでも椿と狐は付かず離れずの距離を保ち、関係を維持してきた。
     暴力も愛欲も無しに、ただ自分の世界に椿の存在を許している。それも一つの愛なんだと、彼女に教えてあげたかった。
     出来れば何も言わずに気が付いて欲しいと狐は思った。自分が許されていると、彼女の心で感じ取って欲しかった。

    「情慾未遂」
     藤堂探偵事務所のソファに仰向けに押し倒される。
     狐の薄い胸板に手をついて、椿が覆い被さるように顔を覗き込んでくる。勝ち誇ったような微笑みを浮かべ、椿は狐の銀縁眼鏡を外しカチンとテーブルに置いた。
     素顔になった狐の頬をゆっくりと撫で、顔にかかる銀髪を払う。耳を露わにさせると、椿は唇を寄せて囁いた。
    「ね、抱いてよ?ホントはしたいんでしょ?」
     首筋に、頬に滑らかな黒髪が落ちる。耳元に温かい吐息を感じると、狐は声を押し殺してソファに指を立てた。
    「狐の好きにして良いんだよ」
     猫のように体を擦り寄せられ、狐と椿は衣服を隔てて密着した。それでも押し当てられる胸の柔らかさ、足を割って絡みついてくる太腿の体温がしっかりと伝わってくる。全身からは、いつか香った花のような匂いがした。
     狐が低く喉を鳴らす。
    「絶対に嫌」
     拒絶の言葉を聞き、椿がわざと耳元に息を吹きかけて笑った。狐の背中がピクンと跳ねる。
    「いいもん。そのうち抱きたくなるから」
     白い指が狐のネクタイの結び目にかかった。羞恥心を煽るようにゆっくりと引っ張られると、しゅるしゅると滑らかな音を立ててネクタイが解ける。その間も、狐と椿は一瞬たりともお互いから目を離さなかった。
     ワイシャツの第1ボタンに手がかけられる。椿の手つきは慣れたものだった。そのまま第3ボタンまで開けてしまうと、今度は狐の首筋に唇を押し当てた。角度を変えて、何度も何度も口付ける。その度に椿は、んっと甘い吐息のような声を漏らした。
     制止の意味を込めて狐が椿の肩に手を掛ける。
    「ちょっと、嫌だって、聞こえない、の?」
     拒絶の言葉を口にすると、それは自身の欲情が隠せないみっともないものとなった。椿がちらちらと舌先で狐の肌をくすぐりながら、上目遣いで笑う。
    「ウソ。気持ちよくなりたいでしょ?狐の好きなことしてあげる」
     するんと椿の指がシャツの隙間から滑り込む。浮いたあばらの窪みをなぞられ、鎖骨を軽く噛まれる。
    「い、やだ!」
     椿の手の平が胸を滑った。撫で上げられるような愛撫にゾッと頭に血が上る。このままでは理性が焼き切れるとはっきりとわかった。
     狐は思い切り足で反動をつけて起き上がり、勢いそのままに椿を押し倒す。先程までとは違い、今度は狐が椿を見下ろす体勢になった。
     はぁはぁと息を荒げ、狐は目を剥いて怒鳴った。
    「いい加減にしてよ!男が全員君を抱いてくれるなんて思わないで!」
     艶のある黒髪をソファに広げ、その中にある椿の顔は驚きの色が浮かんでいた。
    「帰る!!」
     ネクタイも眼鏡もその場に置いたまま、狐は足音荒く藤堂探偵事務所を出た。


    「2つの顔」
     椿と一悶着あったその日の夜、狐は部屋に帰るなり本棚から心理学の本を抜いてテーブルに置いた。次に冷蔵庫から炭酸水を取り出しグラスに注ぐと、その場で半分ほど一気に飲み干す。炭酸が痛みを伴い喉を滑っていった。
     ソファに座りメビウスに火をつける。大きく深呼吸するように吸って、ため息のように長く煙を吐いた。
     テーブルに置いた本を手に取り、被虐待児のケア、愛着障害の項目を開く。
     ―愛着障害。養育者との愛着が何らかの理由で形成されず、子供の情緒や対人関係に問題が生じる状態。
     その中で脱抑制型愛着障害の説明に目を留める。
     ―誰にでも無差別に愛着行動を示したり、注意を引こうとして見境なく親しげな振舞いをする。
     ―幼い頃に虐待やネグレクトなどの不適切な養育環境で育った子どもは、愛着障害を発症するリスクが高くなる。
     そこまで読んで、狐はもう一度ため息をついた。自分の直感は当たっていた。椿と接している時に感じる違和感はやはりこれだったのだ。
     …だから和真さんはあの子を引き取ったのか。
     二本目のメビウスに火をつける。重い頭を誤魔化すように無心で煙を燻らせた。
     ふっと頭に疑問が過る。
     …じゃあ、和真さんはどうしてあの子を放っておいているの?
     実の両親から虐待を受けていた子を養子として迎え入れた。そこまでは和真らしさがある。しかし、その後は彼女を虐待した両親とそう変わらない。椿がいくら売春をしようが、異性に暴力を振るわれようが叱りもしなければ心配もしない。無視を決め込んでいる。
     無視。その言葉を頭の中で響かせた時、狐は思わず口元を押さえた。
     …そう、和真さん、あの子を無視してるんだよ。
     ではなぜ椿は和真を慕うのか。とてもじゃないが父親の役割を果たしているとは思えない和真を。
     …試し行為?それとも自傷行為?
     被虐待児が自傷行為として不特定多数と性交渉をするというのは、自分にも経験があるのでわかる。しかし、男性と女性ではその結果の重さが違う。和真がそれを知らないはずがない。
     わからない、と狐は本を閉じ、短くなったメビウスを灰皿に押し付けた。
     父への愛を請いながら売春をする娘、それを見ている父親。想像するにはあまりにもグロテスクだった。
     ソファに深く体を預け、目を閉じる。脳裏に浮かぶメイクの崩れた椿の泣き顔。剥がれ落ちた仮面の下にある子どもの泣き顔。あれを見ても和真は何もしない。椿が泣きじゃくっているのをただ見ているだけ。
     …どうして?
     尊敬してやまない和真の背中が二重になる。公平で優しくて力強い和真と、椿を見殺しにするような和真が狐の中にいる。自分が信じ、憧れを抱いている藤堂和真とは一体何なのだろう。
     ガタン、と音がした。弾かれるようにしてソファから立ち上がる。息を殺し、音がした方向を凝視するが、それ以上は何も起こらなかった。
     はあっと息を吐く。冷や汗をかいた手の平で髪をかき上げた。音にも驚いたが、同時に馬鹿な事を考えた自分にも驚いた。

     和真が自分を殺しに来ただなんて、どうして。


    「椿ちゃんが指名手配されて逃げ場が無くなったif」
     もう狐には打つ手が無かった。どんなに考えようとしても全てが頭から滑り落ちてしまう。椿はもう、無慈悲に法に裁かれるしかなくなってしまった。
     震える腕で椿を抱き寄せ、狐は全ての大人を呪い、慟哭した。
     親から愛されなかった罰がこれなのか。
     人から愛されたいと願った罰がこれなのか。
     散々この子から奪っておいてもまだ足りないのか。
     この子はもう、何も持っていないというのに。
     椿を守るものはこの頼りない体1つしかなかった。それでも彼女に覆い被さるように抱きしめた。世界中の大人から椿を守ってあげたかった。

    「遺骨」
     骨壺から小さな骨の欠片を幾つか取り出した。それをペンダントトップの空洞に落としてネジを閉める。思っていたより簡単に完成してしまった。
     ステンレスのスティックの中に椿がいる。
     ペンダントを首から下げ、胸元の位置にきたスティックに触れる。狐は愛おしげな、少し呆れたような笑みを浮かべた。
    「君、よく僕に抱きついてきたよね。だから身に付けられる物が良いかなって思ってた」
     不意にギィっとソファの右側が軋んだ。視線をやっても無論そこには誰もいない。それでも狐はそこに彼女の気配を感じていた。
    「僕が生きている間、一緒にいようか?」
     そっと右肩に重さが乗る。
    「そうだね。…あぁ、忘れてた」
     誰も居ない右隣に向けて狐が微笑む。
    「おかえり。ずっと会いたかった」
     椿が子どものように微笑み返しているのが見えた気がした。

     喫茶店で待ち合わせていた早乙女は、すぐに狐の胸元のペンダントに気付いた。
    「稲荷田さんがアクセサリーなんて珍しいな。恋人でもできたのか?」
    「早乙女さんという人が居ながら、そんな訳ないでしょう?」
     狐がはしゃいだ様に笑う。この手の冗談もすっかり慣れたものなのか、早乙女はフッと笑った。
    「あー、はいはい。そりゃどうも。…で、本当のところは?」
     そっと胸元のスティックに触れ、狐は困ったように微笑んだ。
    「妙に気になる子がいたんです。僕を困らせて、喧嘩して、でも可愛くて。…その子の遺骨なんです」
    「そうか…」
    「たまにいますよね、やたらと懐いてくる子って」
     変わった子でした、と言うと早乙女がコーヒーに口をつけながら笑った。
    「あんたみたいにな」
    「ちょっと!もう、僕の扱いがすっかり上手になっちゃって!」


    「メタルギア的なゲーム」
    〜夜鷹と二人で潜入捜査する早乙女さん。その無線でのやり取り〜

    〈コール音〉
    夜鷹「早乙女さん、聞こえる?」
    ※「そこに電子ロックがあるだろ?それに4桁の番号を入れて」
    ※「番号は狐から聞いてるだろ?」

    →ああ
    夜鷹「さすが早乙女さん。じゃ、俺はもう少し先で待ってるぜ」
    →いや…
    夜鷹「あれ、聞いてねぇの?ふーん…。○○○○だよ」

    →入力失敗
    夜鷹「何やってんの、早乙女さん。遊びに来た訳じゃねぇんだよ」
    →連続失敗
    夜鷹「あのさぁ、俺すっげーマジメにお仕事してんのよ。しっかりしてよ」

    〈コール音〉
    夜鷹「早乙女さん、見張りが強化されてる。そっからでも見えるだろ?」
    ※「今なら挟み撃ちにして片付けられそうだぜ。どうする?」

    →行くぞ
    夜鷹「…オーケー。いつでも良いぜ…」
    →迂回するぞ
    夜鷹「わかった。少し先に合流できるポイントがある。そこで落ち合おうぜ」
    →時間切れ
    夜鷹「マズイな、奴らこっちに気付いたみたいだ…!」

    〈コール音〉
    夜鷹「早乙女さん、さすがに段ボールに隠れるのは無理があると思う」
    〈コール音〉
    夜鷹「ねぇ、そのバンダナ巻いたところでレディスミスは無限に撃てねーよ」
    ※「何?最近ゲームでもやってんの?」
    〈コール音〉
    夜鷹「あぁ、今流行りのお菓子だな。なかなか手に入らないらしいぜ」
    早乙女「…で、味は?」
    夜鷹「は?味?!こんな時に味なんて聞くの?知らねーよ、つーか気にした事もねーよ!」


    「霧の国から」
     閉店後の喫茶店のカウンターで、狐は大声で嘘泣きをした。
     烏は特に気に留める様子もなく二人分のコーヒーを淹れると、狐と向かい合うようにカウンター内にあるスツールに座った。目の前に置かれたコーヒーカップを倒さないように、狐は大袈裟に突っ伏して泣き声を作った。
    「僕より先に早乙女さんと旅行に行くなんて酷い!」
    「お前は仕事だったろうに」
    「そうなんだけどさぁ。最近伯父さん、早乙女さんと仲良いよね」
     狐がのそのそと顔を上げ、未練がましい目で烏を見る。烏は目尻に皺を浮かべ、コーヒーを飲みながら笑った。
    「あぁ、趣味が合うからね。それに彼は気持ちの良い子だから、話をしていて面白いんだよ」
     その言葉に狐は素早く身を起こし、パッと表情を輝かせた。
    「うん、凄く素敵でしょう?僕より年下なんだけど、こう、頼れる感じがして」
     先程までの不機嫌をどこかに放り投げ、狐は今度は頬に手を当て、ニヤニヤと照れ笑いを浮かべだした。
    「僕、凄く憧れてる。和真さんもそうなんだけど、僕に力をくれる感じがする」
    「そうだね、お前が懐く理由がわかるよ」
     飲み終えたコーヒーカップを置き、烏はカウンターの下からダークグリーンの紙袋を出して、狐の前に置いた。紙袋に書かれている金色の文字を読んで、狐は目を丸くする。
    「…ハロッズだ、初めて見た」
    「お土産だよ。開けてご覧」
    「うん」
     狐が素直に紙袋から2つの箱を取り出し、小さい方を手に取った。
    「Walsall & Tunner?どこのブランドだろう?」
    「どこだろうね」
     烏が含みを持たせて笑う。丁寧にシールを外して箱を開けると、狐はあっと声を上げた。
    「ベルトだ。しかもこれ革でしょ?」
    「そうだよ。お前も冠婚葬祭に呼ばれる年齢だからね、一本は良い物を持っていなさい」
     黒い牛革のベルトの感触を確かめるように、狐は人差し指で何度もその曲線をなぞった。量販店で買うベルトよりもずっと滑らかな手触りに凄い、と口の中で呟く。
    「僕、こんなに良い物初めて貰った。ありがとう…」
    「そっちも開けてご覧。きっと気に入るよ」
    「うん」
     残った箱も丁寧に開封すると、狐はもう一度感嘆の声を上げた。
    「ブックカバー?あ、青だ!」
    「お前はまた心理学の本を読んでいるみたいだから、良い物を選んでもらえたね」
     ブックカバーに鼻を近付け、クンクンと匂いを嗅いでいた狐がきょとんと目を丸くした。
    「何それ。その言い方だと誰かに選んでもらったみたい」
    「どうなんだろうね」
     烏がはぐらかす様な返事をする。
    「え、本当にわかんない」
     焦れったそうな返事をしながら、狐はいそいそとボディバッグから角がへこんだ心理学の本を取り出し、早速ブックカバーを付けた。革の滑らかさがしっとりと本を包み込む。手の平で表面を何度も撫で、その柔らかさにうっとりとした。
    「綺麗…、ぴったりだ」
    「良かったね」
    「うん…」
     もう一度クンクンとブックカバーの匂いを嗅いでから、狐はボディバッグに本をしまった。少し興奮しているのか、声がワントーン高くなる。
    「革製品って初めて触った」
    「そうかね。一つあれば長く使えるし、それに多少傷が付いても味になる」
    「一点物ってヤツ?」
    「そうだよ。…大事にしなさい」
     落ち着きと重さ、深みを持つ烏の声に、狐は子どものように小さくうん、とだけ返した。
     人生と同じだからね、そう言われたような気がしていた。


    「両方却下」
    〜早乙女さんと椿ちゃんと狐でお出かけの帰り〜
    狐「今日は早乙女さんと一緒で楽しかったね」
    椿ちゃん「うん。あんたと違って優しくて格好良かったー!素敵ー!」
    狐「……」
    椿ちゃん「帰る時にちゃんと手振ってくれてたねー!」
    狐「そうだねー、きっと僕の事好きなのかもねー」
    椿ちゃん「違うもーん!あたしの事が好きなんだもんねー!」
    狐「はぁああぁあ?!」
    椿ちゃん「はぁー?!」


    「推理小説」
    和真さん「稲荷田さん、何を読んでいるんですか?」
    狐「たまには探偵らしく推理小説です」
    和真さん「最近の推理小説は面白いですか?」
    狐「面白いし難しいですよ。誰か犯人か全然わからなくて」
    和真さん「動機もトリックも複雑ですからね」
    狐「そうなんです。読めば読むほど、僕が犯人になっちゃうんですよね」
    和真さん「それはどうかと…」


    「行列のできぬ法律相談」
    狐「早乙女さん、法律について教えてください」
    早乙女さん「珍しいな、どうかしたのか?」
    狐「この間上司に、稲荷田さんは常に触法スレスレの調査が多いから一回しっかり勉強しなさいって注意されて…」
    早乙女さん(簡単に想像出来たな)
    狐「で、これなんですけど、これって違法なんですか?(問題を指しながら)」
    早乙女さん「あー、まぁ、なにか法に触れてるな(法律30)」
    狐「へー、何が悪いんだろう?(法律5)」


    「ありがとうをあなたに」
    〜椿ちゃんのifのラストあたり〜

    「ねぇ早乙女さん、僕達色々あったけど、また三人で一緒にいるね」
     狐は椿の遺骨が入ったペンダントに触れて微笑む。一拍置いて、早乙女が視線を少し遠くに遣りながら小さく呟いた。
    「…そうだな」
     早乙女の返事に僅かな憂いと、自責のような色が混ざった。敏感にそれを察知した狐が早乙女の方へ顔を向ける。ツイツイっと悪戯をする時と同じように、革手袋に包まれた手の平を突いた。
     いつもと同じように早乙女が狐を見る。その目を狐はじっと覗き込んだ。
    「ねぇ僕、ずっと考えてきた事があるの」
    「なんだ?」
    「僕、あの時、自分の事で精一杯で、早乙女さんの事何にも考えてなかったね」
     早乙女が何か言う前に、狐はその背中に両腕を回しぎゅっと抱きしめた。
    「こうして、僕が色んな事を乗り越えてこられたのも、早乙女さんが全部受け止めてくれたからでしょう?ありがとう」
     いつかの喫煙所。泣き崩れた自分に早乙女がしてくれたように、狐はその背中をトントンと軽く叩いた。
    「早乙女さんがいてくれて良かった。他の人じゃ、こんなに一生懸命になってくれないもの」
     なんにも上手く言えないんだけどね、と狐は笑った。
    「僕達に優しくしてくれてありがとう。全部、全部、早乙女さんのおかげ、大好き」
     ふっと隣に誰かが立つ気配がした。それは目で確認しなくても、満面の笑みを浮かべた椿だとわかった。
    「そうだよ、あんたのおかげでパパとお喋り出来たんだよ。ありがとうー!」
     無邪気な椿の声。この声が早乙女にも聞こえて欲しかった。


    「護身術指南」
    狐「ねぇ、何か僕にも出来る格闘技教えてよ」
    早乙女さん「民間人でも出来る護身術なら教えられるぞ」
    狐「ホント!?教えて!」
    早乙女さん「じゃあ、道着に着替えてきてくれ」
    狐「はーい」

    〜しばらくして

    狐「お待たせしました(←もやし体型)」
    早乙女さん「あ、弱そう(じゃ、始めるぞ)」

    〜実践!

    狐「ぎゃあああー!」
    早乙女さん「おいおい、そんなに力を入れてないぞ」
    希乃さん「うるせぇな、お前ら」
    狐「あ、希乃さんだ!今僕ら護身術プレイをしているんです」
    早乙女さん「その誤解しか招かない言い方はやめてくれ!」
    希乃さん「護身術プレイ?」

    〜希乃さんの見学
    (あまりにもヘッポコな狐)

    希乃さん「おい、一度見本を見せてやる。早乙女、組むぞ」
    狐「え、希乃さんが早乙女さんと組むの?!」
    早乙女さん「お願いします」
    希乃さん「体格差があっても、押さえる場所さえ間違えなけりゃ、取り押さえるのは難しくねぇんだよ、ホラ」
    狐「あ、ホントだ!早乙女さんが動けなくなっちゃった!」
    早乙女さん「もう少し動きをつけるとこうなるな」
    狐「…凄い!ねぇ、もっと見たい!」
    早乙女さん「ああ、良いぞ。希乃さん、お願いします」
    希乃さん「チッ…」
    狐(伯父さんも凄いけど、二人ともカッコいいなぁ…)


    「狐のお使い」
    希乃さん「おい、どん兵衛。昼飯買って来い」
    狐「はーい」
    早乙女さん「稲荷田さん、俺も行って良いか?」
    狐「本当!?行こう、行こう!」
    希乃さん「おい、廊下を走るんじゃねぇぞ」

    〜道中〜

    早乙女さん「なぁ、こういった雑用は断って良いんだぞ」
    狐「別に嫌じゃないよ」
    早乙女さん「しかしだな…」
    狐「小さい子もよく僕にアレして、コレしてっておねだりしてくるから、それと同じだよ」
    早乙女さん(この人は大人なんだか、子どもなんだか…)

    希乃さん「どん兵衛、昼飯。カップ麺以外ならなんでもいい」
    狐先生「はーい」

    購入後
    狐先生「はい、希乃さん。おにぎりとお茶買ってたよ」
    希乃さん「どうも(ひったくるように受け取ってさっさと引っ込む)」
    狐先生「あ、早乙女さんだ!早乙女さーん」
    早乙女さん「稲荷田さんじゃないか。また希乃さんのパシリに使われてたのか」
    狐先生「まあね。一向に僕の本名は覚えてくれそうにないけどね」
    希乃さん「お前まだいたのか。ところで早乙女――(後半は早乙女さんに耳打ちして返事を待たずに足早に去って行く)」
    狐先生「希乃さん、ご飯食べるのすっごく早くない? あと、なに言ってたの?」
    早乙女さん「忙しい時はいつもあんな感じだぞ。さっき俺に言ってたのは事件のことだから、稲荷田さんには話せない。すまないな」
    狐先生「そっか。じゃあ僕もこれ以上訊かないでおくね」

    早乙女さん(意外そうな顔で狐を見る)
    狐「なぁに?僕の顔、そんなに面白い?」
    早乙女さん「いや、あんたの事だから事件の事を聞かせて、聞かせてとせがんでくるかと思っていたんだが、意外だったな」
    狐「さすがの僕でも仕事と遊びの分別はつけていますよ。早乙女さんや希乃さんを困らせるような真似はしません」
    早乙女さん(…珍しく真面目な事を喋ってる)
    狐「…いつまでも自分本位の子どもじゃダメなんですよ」
    早乙女さん(あの事件(さよなら人生)から少し成長したんだな)
    狐「あ、でも、ふざけて良い時はいーっぱい二人にイタズラしちゃおーっと!」
    早乙女さん(いや、いつも通りだ)


    「狐マフィアifルート」
    どん兵衛の油揚げで足を滑らせて記憶喪失になった狐
    「僕、マフィアかも!」という妄想に取り憑かれマフィア入りを果たす
    ありとあらゆるトラブルを巻き起こし、最後は世界中のマフィアが集結し摘発される(もちろん夜統さん所も壊滅)
    狐「僕、もうヤダー!!」
    を合図に、ギャグ調のBGMで狐のやらかしダイジェストを背景にエンドロール
    そして最後に一緒に囚人服を着た幹部達に
    狐「ねぇ、楽しかったね!もう一回マフィアしよう!」
    と提案して画面上から「END」の文字がドシーンと落ちてくる

    CM1
    希乃さん「おい、早乙女!モニターを見てみろ!」
    早乙女さん「どうしたんです?」
    モニターに映る狐(背後で銃撃戦)「何かすごいねー!早乙女さん、希乃さん見てるー!?」
    希乃さん、早乙女さん「ブッ!!」

    CM2
    早乙女さん「稲荷田さん、マフィアなんてやめるんだ!」
    狐「早乙女さんの頼みでも無理だよ」
    早乙女さん「ドライブ、水族館、遊園地、遊びに行くならどれが良い?」
    狐「ドライブ!!」

    CM3
    狐「早乙女さん、マフィアに入らない?」
    早乙女さん「本気か?」
    狐「今ならお友達を紹介すると僕にキックバックがあるんだよ!」
    早乙女さん「それはマルチ商法だ!」
    狐「早乙女さんが希乃さんを誘えば、早乙女さんにもキックバックがついてくる!」
    早乙女さん「だからそれはマルチだ!!」


    「サッカーしようぜ!?(マフィアif)」
    狐「これが手榴弾?ピンを抜いて投げれば良いの?」
    投擲ファンブル、空中へ
    狐「アレ、変な方向にいっちゃった!?」
    謎の実況者「横浜の空に手榴弾が舞っている!」
    謎の実況者「稲荷田選手のスローインは定規ではかったようにピタリ、棗選手の足もとに落ちました!!」
    謎の実況者「おーっと、棗選手!ピンが抜かれた手榴弾に臆することなくシュート!!!」
    謎の実況者「敵陣にゴール!!!」
    1カメ、2カメ、3カメのカットイン
    爆発を背景にはしゃぐ狐「手榴弾は友達!怖くない!!」

    空を背景にタイトル表示
    「キャプテン棗」
    ※不審物を発見した場合は,爆発物三原則「触るな,距離を取れ,遮蔽 せよ」に従い,直ぐに不審物から離れ,警察へ通報してください


    「エイプリルフール」
    〜警視庁スパイ編〜
    狐「早乙女さぁ〜ん。希乃さんがまたスパイ文字書いたんだよ〜。こんなの僕、読めないよ〜(嘘泣き)」
    早乙女さん「はいはい、貸してくれ。…わかった。会議に必要な資料を用意して欲しいって書いてあるぞ」
    狐「早乙女さん、よくスパイ文字読めるね(嘘泣き)」
    早乙女さん「…なぁ、あんたはおかしいと思わないのか?」
    狐「何が?」
    早乙女さん「もし、希乃さんがスパイだとしたら、その文字を読める俺は何だと思う?」
    狐「…え?」
    早乙女さん「俺もスパイだって思わなかったのか?」
    狐「……」
    早乙女さん「(真剣な顔を近付けながら、いつもより低い声で)稲荷田さんには俺の秘密を知られたくなかったが、これも探偵とスパイが辿る運命かもしれないな…」
    狐「早乙女さん…」
    早乙女さん「(狐の耳元でAPP16の声で囁く)…俺もスパイだ」
    狐「…!」
    早乙女さん「……フッ。なんて、冗談だ。希乃さんの文字は特徴さえ掴めれば何とか読めるぞ。会議の資料だったな。少し待って…、ん?稲荷田さん?稲荷田さん!?」
    狐(気絶中)

    〜しばらくして〜
    早乙女さん「稲荷田さん、機嫌は直ったか?」
    狐「直ってない!!」
    早乙女さん「そうか、それは残念だな。俺は今からあんたとドライブに行きたかったんだがな」
    狐「直った!行く!!」
    早乙女さん(…相変わらず面白い人だな)
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    6時半のラッコ

    SPOILERTRPG
    「レコードユアレポート」
    (ムーキセキ 著)
    TRPGの探索者ならどなたでも遊べるシナリオです

    記された名前
    ・稲荷田狐
    レコードユアレポート■タイプライターからの挨拶
    |ではあらためて。ワタシは記録とお喋りが好きなしがないタイプライターだが、しばしよろしくお願いするよ。|
    |あなたのことを記録させて欲しい。|

    狐「僕も似たようなモノだけどね。よろしくお願いしちゃおうかな」


    ■あなたの『名前』
    |最初の質問だ。|
    |まずはあなたの『名前』を教えてもらえるだろうか?|

    狐「稲荷田狐。変わった名前でしょう?同じ名前の方にお会いした事はまだ無いね」


    ■あなたの『世界』について
    |ここには様々な世界からやってくるようでね。これを記録しておかないと。|
    |あなたの言葉で『あなたの住む世界』がどんな場所なのか説明してくれるかい?|

    狐「ごく普通の生活の中に、非日常が舞い込んでくる世界だね。魔法であったり、怪物であったりと、一般常識では理解されないようなモノに遭遇するよ。…そうだなぁ、僕が一番最初に事件に巻き込まれた時は、自殺した方を運ぶ電車に詰め込まれたっけ。そういえばあの時の言葉って、僕にとって重要な約束に繋がるものになってるね…」
    4364

    recommended works