トゥォソ前提4×1「ありゃ、いちまっちゃんも寝る前の一服?」
「……んー。」
久々の収入で得たタバコ。眠る前の一本と思って、家の屋上(と言ってもほぼ屋根だが)へ吸いに来たのだが。そこには思わぬ先客のおそ松兄さんがいた。もう既に何本か吸っているようで、足元の灰皿にはタバコの死体がまばらに散っていた。
「俺ほどじゃないけどまぁまぁ吸うよね、一松。肺がんまっしぐら〜!俺たち、お先真っ暗〜。」
おれをタバコデビューさせた当の本人は、あん時吸わせなきゃよかったな、なんて言ってケラケラ笑う。イラッとして、おそ松兄さんの吸いかけを口にくわえた。
「あっ!それ俺の〜!なけなしの金で買ってんだから吸うなよー!」
「はは。おれ苦手。この味。」
大袈裟なフリで吸われたことを嘆く様を愛おしく感じ、笑みがこぼれた。だが、口の中の異物の感覚が、その笑みを引き攣らせる。おそ松兄さんのいつものタバコの味じゃない。拝借して吸う時のあの味と全く違う。不味い。
「あそー。ま、俺もそれそんな好きな銘柄じゃないけど。」
「じゃあなんで買ったの?」
そう聞いたあとすぐに、自分が墓穴を掘ったことを理解した。コイツには、俺ら兄弟の存在よりも心の根幹に根付く男がいるんだった。そいつも、タバコ、吸ってたな。俺の悪い予感は的中する。
「おじさんがむっかしから吸ってるやつだから。」
「……けっ、気持ち悪ィ。」
おじさん。今おそ松兄さんが依存してしまっている男。元、犯罪者。僕らが小学生の頃に一度、我が家に下宿をし、台風のようにうちを荒らして去っていった。その際、おそ松兄さんに妙な執着心を見せていた。と、同時に、おそ松兄さんの心を掴んでしまった。おそ松兄さんの心の中に、ずっとおじさんは根付き続けた。高校の時、兄さんと再開したおじさんは、その頃からずっと、おそ松兄さんと肉体的な関係を結び続けている。兄さんに惚れているおれにとっては、すごく邪魔な存在で。その名を聞くだけで、殺したくてたまらなくなる。
「一松さぁ、まだ俺の事好きなの?」
その話題は振らないで欲しかった。こちらからはできるだけ話題に出していないのに。デリカシーのなさに少々苛立ちを覚えた。
「だったら何。」
「んーん。めっちゃ一途だなーって思ったの。」
おれが奪ったタバコを、兄さんが自らおれの手から取っていく。
「あんただって一途だろ。ずっとアイツが好きでさ。」
「まぁ……そう言われちゃあそうなんだけどな。あ、でもね、いつお別れかだって分からない危うい相手だから、そういう恋愛的な気持ちもなあなあ……半ば?かなぁ。好きってか、一緒に入れたらなーってくらいで。」
一緒にいたい気持ちはわかる。そういう気持ちになることは、わかるのに。それ、おれじゃだめなのかな。
「そんなのなんかより。絶対、俺の方が」
「あーストップストップ。それ以上は言わないで。俺そういうの弱いの。」
「弱いから言ってんだ」
長く過ごしてきたのはおれだ。長く見てきたのはおれだ。おれのほうがおそ松兄さんを分かってるのに。それを、こいつと“おじさん”の歪んだ醜い恋慕で、無惨に踏み潰される。
「ヨッ策士!」
「…………本気だから。」
戯ける兄に、殺意に近いものを向ける。一緒に死んだって構わない。おれはそれだけ兄のことを。ああ、自分が気持ち悪い。気持ち悪い。
「ま、がんばー。俺も心が盗まれないように気をつけなきゃな。」
「舐めてんのか?」
「俺が舐めんのは飴とおじさんのち」
「寝る」
アホか。
「あーん!ちょっとぉ!いちまっちゃ〜ん!惚気聞いてよぉ!」
「バーカ。」
あー。まじ、気持ち悪ィ。