契約書を失った3章直後のアズが願いを叶えてくれる鏡に縋りかけて大変なことになるホラー話(続かない).
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体中の血が凍るような恐怖を男は感じていた。はあ、はあ、と五月蠅いほど荒い呼吸を繰り返して落ち着こうと躍起になるが、冷や汗は止まらず、心臓も壊れたようにバクバクと暴れている。怖いという感情以外なにもない。
アパートの階段を駆け上り、引っ掻くように鍵を開け、自宅のワンルームに転がり込むなり震える手で施錠をする。ガチャリと大袈裟な音を響かせると、チェーンもしっかりと掛ける。いつもならチェーンなんて面倒くさがってしないが、今だけは違った。
ヤツが来る。その恐怖だけが全身を突き動かしていた。
「くるなくるなくるな…ッ」
祈るように繰り返して、ガチガチと歯を鳴らしながら部屋の隅に逃げ込む。
この部屋の鏡は三日前に全て取り外した。窓もカーテンで締め切っているし、電気さえ付けなければ反射するようなものはない。この部屋でじっとしている限り安全だ。
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