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    mutsuki_twst

    @mutsuki_twst イドアズ、ジェイアズ、フロアズ。オクタ一生一緒にいてくれや。

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    mutsuki_twst

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    半年くらい前に書いてポイッした奴が出てきたので供養。アズが記憶喪失になって双子とすったもんだしつつ事件に巻き込まれて絆を深めるまだ成立してないイドアズ。

    記憶喪失アズール ジェイド・リーチはらしくもなく焦っていた。
     陽が沈みきる午後五時前、校舎の廊下に彼の靴音が忙しなく響く。寮服のまま学内を歩くことは珍しいため、ここに来るまでいくつもの不躾な視線を浴びたがそんなことを気にしている余裕もない。
     モストロ・ラウンジで接客をしていたジェイドは、異常事態に気づいたその足で校舎を訪れた。もうかれこれ一時間ほど彷徨っている。幸い今日はフロイドもシフトに入っているためジェイドがいなくても問題ないが、早く戻りたいと心は急いた。

    (ここにもいませんか…)

     図書室を一通り確認して、思わず舌打ちを落としかける。放課後も終盤に差し掛かった今、図書室にはほとんど人がいないが、それでも無駄に音を鳴らすのは己の焦りを認めるようで嫌だった。
     何か問題が起きたわけではない。一日の授業を無事に終え、契約違反者への取り立ても特になく、通常通りラウンジで配膳を行う。フロイドも今日は機嫌が良く、いつも以上に全てが平穏だ。
     しかし一時間ほど前、ジェイドはあることに気づいた。
     寮長兼ラウンジの支配人であり、ジェイドとフロイドの幼馴染みであるアズールが寮内のどこにもいない。

    (アズール…どこにいるのです…?)

     図書室を出て、上階を目指すべく階段を上がっていく。西日が校内を眩いオレンジ色に染め上げ、ジェイドの長い影を色濃くする。それが時間の経過を物語っていて、ひりつくような焦りが胸をざわつかせた。
     アズールは今日、何もないはずだ。寮長会議もボードゲーム部の活動もなく、授業が終われば真っ直ぐ寮に戻り、VIPルームで事務作業をするだけだった。しかも今日はジェイドとフロイドが揃ってシフトに入っているため、わざわざラウンジに顔を出すことはない。だからジェイドもアズールの姿が見えずとも特に気にしていなかった。校舎から直接VIPルームに向かったのだろうと。
     しかし手が空いた頃に紅茶をいれてVIPルームを訪れると、アズールはいなかった。鍵はかかっていて、空調をつけられた様子も一切なく、今日このVIPはまだ一度も開けられていないのだと察する。つまりアズールはここに来ていない。急用であれば副寮長のジェイドに必ず連絡が入るが、それもない。
     おかしいと、ジェイドの直感が囁く。ティーセットをVIPルームに置き、すぐさま寮内を見回るが、アズールはいない。スマホを鳴らしてもメッセを送っても反応はなく、ますます違和感が肥大した。アズールがいないので探してくるという趣旨のメッセージをフロイドに送り、そのまま寮を出て現在に至る。
     階段を上りきると廊下を歩いていく。気づけばさらに陽が傾き、夕焼けがわずかに暗がりを帯びる。あと十分もすれば完全に陽が落ちるだろうと考えながら長い足を動かすと、誰もいない空間にカツカツという靴音だけが虚しく響く。
     教室が並ぶ一角にはもはや人気はない。まるで自分以外誰もいないようだと馬鹿みたいな感覚に浸っていると、曲がり角に差し掛かった。その先には最上階に続く階段がある。
     カツンと、またひとつ響く靴音。その音が少し不気味に思えるが、そんなものに竦むようなジェイドではない。不気味という感覚すらも彼にとっては愉快な刺激だ。
     なのに、階段を見上げて見えたものにジェイドは凍りついた。心臓もこの一瞬だけ止まっていたと言われたら信じられる。
     見上げた先の踊り場に人が倒れている。壁に嵌め込まれた格子窓から夕陽が降り注ぎ、倒れているその人を美しく輝かせるが、綺麗だと見惚れることはなかった。
     眠るように倒れているその人物は、紛れもなくアズールだった。

    「アズール…!?」

     階段を駆け上り、アズールの元へ向かう。その途中、鼻先を掠めたにおいにジェイドは目を見開く。血のにおいだ。初めて嗅ぐわけでもないそのにおいにらしくもなくまた焦って駆け寄ると、アズールの頭から血が流れ出ていた。どうやら頭を打ち付けたようだ。おそらく階段から落ちたのだろう。

    「アズール! しっかりしてください、アズール!」

     脳を揺さぶらないよう、頬を叩く。けれどアズールの両眼は硬く閉ざされたままで意識は戻らない。心臓が嫌な鼓動を刻み、冷や汗がじんわりと額を濡らすが、ジェイドは大きく息を吐くと驚異的な自制心で冷静さを取り戻す。
     そこからのジェイドの行動は早かった。すぐさまフロイドに連絡をし、自身はアズールを保健室へ運ぶ。幸い保険医はまだいてくれて、適切な処置でアズールに止血を施していく。回復魔法も使用されたためすぐに血は止まったが、傷口が開かぬよう念のために包帯が巻かれる。大した怪我ではないと言われて密かに胸を撫で下ろした。
     処置が終わると保険医はアズールをベッドに寝かせ、学園長に報告してくると部屋をあとにする。この学園では魔法による私闘は禁じられているため、事故と判断しかねるものは全て学園長に報告する義務がある。
     残されたジェイドはアズールが横たわるベッド脇に椅子を運び、そこに腰掛けた。すうすうと規則正しい寝息を立てるアズールに少しだけほっとする。

    (最近落ち着いていたので油断していました)

     素直に己の非を認める。数ヶ月前、契約書を全て砂にされたアズールは半数以上の生徒に目をつけられていた。その全てがアズールと契約した生徒で、解放された彼らはアズールに報復すべくチャンスを窺っていた。
     しかし、たとえ契約書を失ったとしてもアズールは強かった。そもそもジェイドとフロイドからすれば、契約書を失った程度でアズールが弱くなったと考える方が理解できない。確かに黄金の契約書であらゆる力を保有していたアズールは最強に等しかったが、そんなものがなくとも彼の魔力量や質が損なわれることはない。雑魚は雑魚に変わりなく、アズールがやられるとは微塵も考えられなかった。
     結果、二人が想像した通り報復を成功させたものは一人もいなかった。それどころかアズールに惨敗し、あの手この手で三倍返しにされるものが続出。もちろんジェイドとフロイドは特に手を貸していないし、別段アズールを守っていたわけでもない。アズール一人に五人がかりで返り討ちにされた生徒たちもいて、世間話でもするようにアズールから事後報告されたときはフロイドと一緒にゲラゲラ笑った。
     だがそれも最近ではすっかりなくなっていた。契約書がなくともアズールはアズールだったと噂が広まり、愚かな企みを目論むものはいなくなった。
     その結果がこれだとでもいうのか。

    「起きたら色々聞かなければいけませんね」

     薄く笑って、眠ったままのアズールに語りかける。いくら運動神経が悪いとはいえ、アズールが誤って足を滑らせたとは考えにくい。誰かに突き落とされたとみて間違いない。きっとアズールも目覚め次第、仕返しの算段に走るはずだ。そういう底意地の悪さをジェイドはとても好いている。
     そしてそれはフロイドも同じで、

    「ジェイド」
    「フロイド」

     ガラリと保健室のドアが開くと、寮服姿のフロイドが現れる。わかりやすく慌てた素振りは見せないが、それでもその目に動揺の色がわずかに宿っているのがジェイドにはわかる。
     フロイドは確認するようにアズールに目を向けると、ふうっと息を吐いて反対隣のベッドにどかりと座る。

    「大したことない感じ?」
    「はい。少し頭を打っただけのようです」
    「階段から落とされたんだっけ?」
    「落ちた、とは言わないんですね」
    「ジェイドだって落とされたって思ってるくせに〜」

     ヘンなの、と笑われる。ついでに「犯人どうしてやろーか」とフロイドは愉快げに目を細めるが、アズールに向ける瞳にはやはり労りが滲んでいた。自分と彼は何もかもが真逆だが、好きなものに対する反応は全く同じなのだから面白い。
     フロイドもまたアズールを気に入っている。飽き性な片割れがもう五年もアズールの側にいるのが何よりの証拠だ。フロイドもジェイド同様過剰にアズールを守るつもりはないが、彼に牙を向けるものは自分たちの敵だという共通認識がある。
     頼もしい片割れと共にアズールの目覚めを待つ。きっと楽しい報復劇を考えてくれるだろうと思うとワクワクする。
     だから早く目を覚まして。そんな願いを胸の内で呟くとアズールの睫毛がふるりと震えた。静かに現れるスカイブルーの瞳にジェイドもフロイドも表情を明るくする。

    「目が覚めましたか、アズール」
    「あはは! 階段から落ちるなんてだっせえの〜! で、誰にやられたの? そいつどうやってシめる?」

     無邪気に笑いながらアズールの顔を覗き込む。オーバーブロットで命を落としかけた経験もあり、目を覚ましたことに二人揃ってほっとする。
     ところがアズールの様子がどうにもおかしかった。目覚めたアズールは水色の瞳をまん丸にする。随分とあどけない表情をするのでジェイドは笑いを収めて両目をぱちくりとさせ、フロイドも不思議そうに首を傾げてアズールを見る。

    「アズール? どーしたの?」
    「もしかして今の状況を理解していませんか? 貴方、階段から落ちて頭を打ったのですよ?」

     ひょっとして後ろから突き飛ばされたとかで現状をわかっていないのかもしれない。そう思いジェイドは説明を添えたが、それでもアズールに違和感を抱く。まるでジェイドの言葉が届いていないようだ。丸く見開かれた瞳は恐る恐るといった具合にジェイドとフロイドを交互に見る。
     やがてアズールは亀のような緩慢な動きで体を起こすと、シーツを胸元に引き寄せて身を退いた。まるでジェイドとフロイドから身を守るように。

    「あ…あの…」

     はくりと、アズールの唇が心許なく動くと、とんでもないことを告げられる。

    「あなたたちは…誰ですか…?」
    「え、」
    「は?」

     ジェイドが驚きの息を吐けば、フロイドもぐわりと両目を剥く。なんの冗談かと思ったが、冗談でないことはアズールを見れば一目瞭然だった。
     






    「記憶喪失です」

     冷たいとも取れる音で医師は告げる。ジェイドがその申告をフロイドと共に病室で聞いていると、責任者として同行したクロウリーが尋ねる。

    「記憶喪失とは具体的に?」
    「自身に関する記憶を全て失っています。認識しているのは自分が男性で人魚だということ。それ以外の生い立ち、家族、友人、自分の名前や年齢さえもアーシェングロットくんは覚えていません」

     医師の視線がちらりと横に向けられる。そこにはベッドで眠るアズールがいる。
     保険医がクロウリーを連れて戻ってきた後、ジェイドとフロイドはアズールの異常を二人に訴え、島一番の総合病院に連れて行かせた。その間アズールはずっと戸惑っていて、怯える彼を連れ出すのにかなり苦労したが、子供をあやすように優しく説き伏せて病院に向かうと、到着するなりアズールはたくさんの検査を受けた。
     時間にして一時間。決して短くはない時間、ジェイドもフロイドも言葉を発さなかった。待合室は重苦しい空気に埋れて、耐えかねたクロウリーが甲高い声で冗談を言いかけたが、ジェイドとフロイドが睨めば蛇に睨まれた蛙の如く大人しくなった。
     永遠に思えた時間が終わると、呼びにきた医師はアズールがいる病室へ三人を招く。どんな顔をすればいいのかジェイドにはわからなかったが、病室を覗くとアズールは眠っていて少しばかり緊張を解いた。どうやら検査で疲れてしまったようだ。

    「ただ幸いと言いますか、言語や一般常識、道具の使い方といった意味記憶は保持されていました。脳にも異常はありませんし、日常生活を送るのに支障はないでしょう」
    「そうですか。それはよかったです」
    「ですが、」

     喜ぶクロウリーの声を遮ると、医師は冷静に続ける。

    「魔法に関する知識が大きく欠如しています。今のアーシェングロットくんは魔法を使えません」
    「は…?」

     驚きの声をあげたのはそれまで黙っていたフロイドだった。フロイドは医師に詰め寄り、震えた声で紡ぐ。

    「アズール、ユニーク魔法忘れちゃったの…?」
    「ユニーク魔法だけではありません。あなたたち魔法士にとって基礎中の基礎ともいうべき簡易魔法すら覚えていません」
    「…んだよ、それ…ッ」

     フロイドの瞳孔が鋭くなる。ジェイドはすぐさまフロイドを抑えたが、フロイドは尚も医師に掴みかかろうとする。

    「忘れたってなんだよ!? 忘れてんなら思い出させろよヤブ医者!」
    「やめなさい、フロイド」
    「いっぱい勉強して覚えた魔法全部忘れたとかマジ意味わかんねえ! アズール勉強ばっかしてたんだから忘れるわけねーじゃん! そんなのアズールじゃ──…ッ!」
    「ん…」

     フロイドの叫びとは別の声が耳を掠める。見るとアズールが顔を顰めて身動いでいる。全員が固唾を飲んで注視すると、アズールはゆっくり目を覚ました。

    「…? ……あ…」

     ジェイドたちに気づいて、アズールはサッと顔色をなくす。自身の状況を思い出したのだろう。不安げに瞳を揺らすとアズールは縋るように医師を見上げ、その様子にフロイドは大きく舌打ちをする。激昂するフロイドにアズールはビクリと肩を竦ませた。

    「ひとまず入院していただきます。二、三日様子を見て、外傷による後遺症等が見られなければ学園に戻ってもらい…」
    「アズールの記憶は戻るのでしょうか?」

     静かな声でジェイドは呟く。その声は驚くほど無機質で、あまりにも硬い音にジェイドが自身も驚く。
     医師はジェイドの瞳を真っ直ぐに射抜くと、医者の義務として冷静に事実を述べた。

    「わかりません。記憶は医学界でも未知の領域で、手の施しようがない」

     ひょっとしたら明日思い出すかもしれない。
     しかし一生このまま思い出せないかもしれない。
     曖昧で不確実で、けれど残酷な事実。

     医師にもどうしようもできないことだとジェイドは理解している。フロイドとてそんなことわかりきっている。だが納得できるかどうかは全く別の話だ。
     静寂に肌がピリピリと痛む。そんな沈黙を打ち破ったのはクロウリーだった。

    「ではアーシェングロットくんをよろしくお願いします。親御さんには私から連絡しますので」
    「わかりました。何かありましたらすぐ学園に連絡します」

     連絡先を渡すクロウリーに、ジェイドもすかさず自分の連絡先を告げる。アズールを残すことに少しだけ不安を抱いたが、設備の整った病院で観てもらうのが最善だ。無理やり自分を納得させて、努めて気持ちを落ち着けているとフロイドが荒々しい足取りで病室を出て行く。その後をクロウリーが慌てて追いかけ、ジェイドもそれに続こうとしたが、ふとアズールと目が合い、足を止める。
     じっとスカイブルーの瞳を見つめる。空の蒼を映した海の色。澄んだ色の奥底にドロドロした怨嗟が燻っていたのをジェイドは知っている。
     なのに、今ジェイドが見つめる水色はただ澄んでいるだけの綺麗な瞳。無色透明で何もないただの虚空だ。
     それが酷くつまらなくて、同時に胸がざわつく。ジェイドの好きなアズールではないのだと痛烈に思い知らされて、つい視線が鋭くなる。
     途端に澄んだ水色が怯えを宿したので、ジェイドは慌てて笑みを浮かべるとなるべく穏やかな声を作った。

    「お大事に」
    「…」

     嘘でも今はアズールを責めるべきではない。だから友好的に去ろうとしたが、アズールは何も言わなかった。なんと言ったらいいのかわからなかったのだろう。戸惑う姿があまりにもアズールとかけ離れていて、いっそ別人だと言われた方が納得できた。
     これ以上ここにいても意味がない。そう判断し、ジェイドは人形じみた笑顔のまま病室を立ち去った。
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    mutsuki_twst

    MOURNING2020年の7月に「夏だしホラーちっくなイドアズ書こう!」と思い立って書き始めたのは覚えてるんだけどびっくりするくらい途中でぶつぎれて終わっててこの後なにを書こうとしたのか全然思い出せない完全なる自己満足供養。続かない。
    契約書を失った3章直後のアズが願いを叶えてくれる鏡に縋りかけて大変なことになるホラー話(続かない).

    .

    .

     体中の血が凍るような恐怖を男は感じていた。はあ、はあ、と五月蠅いほど荒い呼吸を繰り返して落ち着こうと躍起になるが、冷や汗は止まらず、心臓も壊れたようにバクバクと暴れている。怖いという感情以外なにもない。
     アパートの階段を駆け上り、引っ掻くように鍵を開け、自宅のワンルームに転がり込むなり震える手で施錠をする。ガチャリと大袈裟な音を響かせると、チェーンもしっかりと掛ける。いつもならチェーンなんて面倒くさがってしないが、今だけは違った。
     ヤツが来る。その恐怖だけが全身を突き動かしていた。

    「くるなくるなくるな…ッ」

     祈るように繰り返して、ガチガチと歯を鳴らしながら部屋の隅に逃げ込む。
     この部屋の鏡は三日前に全て取り外した。窓もカーテンで締め切っているし、電気さえ付けなければ反射するようなものはない。この部屋でじっとしている限り安全だ。
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