Knowing our destiny5月22日。水戸洋平は、長らく同棲している三井寿の誕生祝いのために用意した小ぶりなケーキを、照明を落としたダイニングテーブルの上に慎重に置いた。
シックなバタークリームのアートをまとった直径10センチの美しいケーキ。1カ月前から予約した。特別な日のための特別なものだから、華美さが少し鼻につくくらいが丁度いい。傍らには温めたケーキナイフ、サーブ用の皿。ちょうど50歳の誕生日なので、すらっと長いろうそくが5本。キメ細かいクリームに覆われた美しい表面に付属のろうそくをグイグイと差し込む。毎年、この1分にも満たない時間、素晴らしい手腕を振るった顔も知らぬケーキ職人に、ほんの少しの申し訳なさを覚える。
早々に帰宅した三井は、テーブルに好物の手料理と酒を見つけて明るい声を出していた。が、席に着き、水戸がケーキのろうそくに火をつけ、それを三井が吹き消し、半分に切ったケーキを受け取るときとき。そこで、少し居心地が悪そうな顔で、声を落として呟いた。
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