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    小倉ベーカリー

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    小倉ベーカリー

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    ルカ魁🇬🇧🏹
    魁斗に想いを寄せるルカと、特待生ちゃんが好きだと言い張りながらルカの気持ちを蔑ろに出来ない魁斗の話

    君が許してくれるのならば“おまえなんかに、おれの気持ちがわかるか!バアアアアアアカ!!!!”
     
    “おれ、弱くてごめんね?もうルカの邪魔しねえからさ”

     あの時、適切な言葉を吐けない自分の不甲斐なさに嫌気がさした。同時に、守らなくてはいけないと思った。誰よりも臆病で、誰よりも優しい君を。この手を、決して離してはいけないと思った。

    この気持ちが単なる友達に向けるものではないと気付いたのは、いつだっただろう。

     
     ***


    「特待生ちゃん!良かったらお昼ご飯一緒に食べない?」
    「はい!ルカ君もそろそろ来ると思うので、3人で一緒に食べましょう」
    「あー……またあいつかよ……」

     魁斗はいつも特待生を気にかける。そうして、ルーカスとの先約があると知るとうんざりしたように目を細める。彼が同じ反応をすると分かっていて、ルーカスは毎度先回りをした。彼の反応を見て楽しんでいる自分がいる。最初のうちは罪悪感を抱いたりもしていたが、開き直ってしまえば案外気楽なものだ。

    「やあ、魁斗も来ていたんだね。特待生、席を取っておいてくれてありがとう」
    「『やあ、魁斗も来ていたんだね』じゃねええ!!何当たり前のように合流してんだよ!つーか!特待生ちゃんに席取りさせんな!!」

     談笑する特待生と魁斗の元へ向かうと、真っ先に気付いた魁斗が周りの目も気にせず喚き散らす。たったそれだけのことを嬉しく思いながら、ルーカスはにやける口元を手で覆い隠した。

    「大体、なんでいつも2人で過ごそうとするとルカがついてくるんだよ……おまえは特待生ちゃんの付録か!」
    「すまない。それなら明日は2人で昼食を摂ろう。明日はちょうど、特待生もジャバウォックの手伝いで予定が埋まっているみたいだから」
    「ちょっと待てェ!話聞いてた!?おれが!特待生ちゃんと!ご飯食べたいの!!なんで貴重な昼休みを男と2人で過ごさなきゃなんねえんだよ!!」
    「それは、俺が魁斗と過ごしたいからに決まっているだろう?」
    「は……ッ」

     ルーカスが胸の内に浮かんだ言葉をそのまま口にした途端、ぶわっ、と音がしそうな勢いで魁斗の頬に熱が広がった。4人がけのテーブルに1人腰を下ろしていた特待生は口許を両手で隠し、驚いたようにルーカスと魁斗を交互に見る。
     何かおかしなことを言っただろうか。不思議な反応をする友人を眺めていると魁斗はあーもう、と呻き、ルーカスの腕を掴んだ。

    「ルカ!ちょっとこっち来い!特待生ちゃん、ごめんね!ちょっとだけ待っててもらっていい?」
    「あ、はい!ごゆっくりどうぞ……!」

     魁斗は特待生に断りを入れ、ルーカスを引き摺るようにしてその場を離れた。ずんずんと大股で歩き、人気のない渡り廊下までやってくるとようやく手を離して振り返る。魁斗の頬は相変わらず赤く染まり、眉根にはたっぷりと怒気を含んで深い皺が刻まれていた。

    「おまえさあ!さっきから何なんだよ!!」
    「何、とは?質問は明確にしてもらえると助かる」
    「だーかーらー!!おまえの言動!まるでおまえが……!っ、おまえ、が……おれのこと……、……みたいな……っ」

     言葉を紡ぐにつれ、魁斗の声は口の中に身を隠すように小さくなっていく。同時に視線は泳ぎ、つり上がっていた眉尻は自信をなくしてだんだんと下がっていった。

    「もっと大きな声で話してくれないか?魁斗は得意だろう」
    「っ、うるせェ!!とにかく、さっきみたいなのやめろって言ってんの!!じゃあ俺は特待生ちゃんの所に戻るからな!」

     着いてくるな!と怒鳴り、魁斗は踵を返して来た道を戻って行った。不意に、離れていく彼が手の届かないに行ってしまうような焦燥感に駆られた。無意識に足を踏み出し、彼の手を取る。

    「好きだ」
    「はァ!?」
    「みたいじゃなくて、好きなんだ」
    「ッ、おまえ……やっぱり聞こえてんじゃねえか……っ」

     怒りと羞恥が混じりあった表情で肩を震わせる魁斗。怒っている姿すら可愛らしいと思ってしまうのだから、相当絆されてしまっている。ルーカスは心の中で苦笑を零しながらも、真剣な眼差しを魁斗に向けた。
     
    「思ったことをそのまま言葉にしてしまうのは俺の悪い癖だ。しかし、君にはこの気持ちを知って欲しい」
    「んなこと言われたって……」

     魁斗は困っている。視線を迷わせて、返す言葉を探している。冗談として跳ね返すべきなのか、真剣に向き合うべきなのか。優しい彼は、ルーカスの気持ちを一蹴できずに迷っている。そんな彼に愛おしさが溢れて止まらない。掴んだ手に指を絡ませると、魁斗の指先は緊張でびくりと震えた。

    「おれは……おれが好きなのは、特待生ちゃんだし……」
    「ああ」
    「ああっておまえ……余裕かよ。格好つけやがって、ほんとムカツク」
    「余裕に見えるか?」

     ルーカスはそっと魁斗の手を引っ張り上げ、左胸に置いた。心臓は普段より早いテンポで胸を打つ。強ばった彼の手の温度が先程より高く感じたのは、気のせいだろうか。

    「ルカは……金持ちで、育ちも良くて、イケメンで……すれ違う女の子はみんなおまえの事見てるし。おまえなら可愛い女の子選び放題じゃん。なんでおれなの」
    「俺が君を守りたいと思ったからだ」
    「それは……特待生ちゃんよりも?」
    「ああ」
    「……即答すんなよ」

     何か気に障ることを言ってしまっただろうか。彼はきゅっと唇を結ぶと、ルーカスの手を振り払った。

    「本当に、おまえは!いちいちムカツクんだよ!女の子達の視線も、特待生ちゃんの隣の席も、特待生ちゃんの予定も、おれから全部奪っていきやがって!」
    「……全部、奪っていいのか?」
    「いい訳ねえだろ!!いいか?おれから特待生ちゃんを奪ったら、一生恨むからな!!」

     捨て台詞のように吐き捨て、魁斗は今度こそルーカスの前から走り去ってしまった。1人残されたルーカスは彼が姿を消した渡り廊下の突き当たりを見つめ、ぽつりと言葉をこぼす。

    「君の心は、奪っていいのか……?」

     この状況でそれを否定していかなかったのは君の落ち度だ。
     恋というのは恐ろしく、言葉も行動も、自分の都合のいいように解釈してしまう。

     
     
     だからはっきりと拒否をしてくれなければ、都合よく期待してしまうよ。



     
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